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妖しい愛の物語のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

妖しい愛の物語(2016年製作のドラマ)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

 だいぶ見逃してしまった回も多いが、楽しめた!乱歩の作品は度々映画化されるなど映像化されてきた作品だが、まだまだ現代に語り継がれる強さがあるなぁと思った(といいつつ、原作全然読んだことないという・・・)。どの話にも満島ひかりがあてられているのだが、彼女の演技の幅としなやかさに毎話驚くしかなかった。

「屋根裏の散歩者」
 シリーズ中、なんだかんだ一番面白かった。今作品一番の驚きは、屋根裏の散歩者役に柔道家の篠原信一を起用したことである。乱歩作品に必要な奇妙な人々の存在だが、今作品もバッチリであるのだ。このドラマシリーズに一貫して、あまり役者の枠に囚われない配役がめちゃ輝いている、絶妙。また、屋根裏の散歩者は朗読がその声を代弁することで、篠原信一の無骨な声を取り除き、あたかも別の人間に仕立て上げている巧妙さもある。朗読という達観した目線があることで、よりサイコパス味が出てきて、乱歩特有の変態性を持つ人物像が際立つ。ほかにも脇役も負けじと怪演している。
 そして何よりそんな彼の犯行を見破る明智小五郎に満島ひかりが当てられている。男性を女性がやるという配役それ自体が乱歩の耽美的な世界を匂わせる。少年のような無邪気さと女性のしなやかさを兼ね備えた演技に釘付けにされる。篠原信一の体の上であそぶ姿は、その両者の体格差の差もあって非常に面白い。柔道家の体である男が、犯行をすべて見抜かれ何もできない滑稽さ。彼がドアのガラスを突き破るとそのまま遺影になってしまう描写などのおかしさも最高。割と編集や映像の見せ方はCMやPVっぽいスタイリッシュさに貫かれている。とにかく満島ひかりに目を奪われる。ジェンダーの壁を軽々と超えてなお魅力的な危うさ。

「何者」
 こちらも明智小五郎役に満島ひかり。前作ほど無邪気な少年感はないが、それでもその推理する姿と飄々とした立ち振る舞いが様になる。それを傍観する男に、芸人、馬鹿よ貴方はの平井”ファラオ”光が。水兵の服とそのヒゲは、確かに大正にいそうではある笑。また、今回はその推理自体が興味深くて普通に楽しめた。ラストの夜の海辺でのタネ明かしは映画なみに盛り上がる。その他の役者は、他の話に比べて割と落ち着いた安定感があるものだと思った。

「黒手組」
また揃いも揃って怪しい人物の配役がうまい。これこそアングラ感がある配役というか(ミッツ・マングローブやつのだひろ、カラテカの矢部の好演)。今作品の明智小五郎を演じる満島ひかりは、よりボーイッシュであり、格好も洒落ている。手の刺青は、昔沖縄で女性がしていたというハジチ?それがまたかっこいいが、なぜそれを手に入れていたかが気になる。
 過去の回想シーンに明智小五郎が出てきたりする演出は、今敏の「千年女優」のような演出だった。推理する場面がいつのまにか劇場になっていたりするのも「パプリカ」っぽいし、どことなく今敏味を感じて、楽しく見れた。平気でプロジェクター使ったりして時代を易々乗り越えるのもアリだなと思った。そのテンポの速さに大事な推理を聞き逃すこともしばしばだったが笑。

「人間椅子」
 いやぁ、よくやったな。一番エロチックな内容を大胆な映像表現でより生々しく・・・。今作品の人間椅子の男は、大半を椅子の中にいて、その暗闇をどう視覚化するかが問題だったであろう。しかし、彼の息吹は闇に浮かぶ煙として表現される。そして何より、その座る人間の触感は、闇に浮かぶ接触面として画面に現前する。黒いジェルに座ることで、接地面のみが見えるという仕組み、すごい。尻や背中が闇に現れる不気味さと生々しさ。触感を視覚化するってなかなかでは?
 ただ、あんまりにも続くそれらの映像は、間延びして供給過多ではあった。肝心な骨格などの微妙な違いを語るシーンも、ほぼ見るだけではわからず、他と”奥様”とでは見分けがつかないという致命的な問題もある。音楽もやや浮いているというか、電子音が合わない。編集のリズムもまたCM的なのだが、それも間延び感。闇の中で語るのと、それを読む”奥様”とのクロスカットも、効果的ではないように思えた。「屋根裏の散歩者」と同じ演出家と知り、納得。主に広告などの映像を担当している。ラストのしがみついて離れない満島ひかりの艶っぽさもあり、オチはしっかりしていた。ただ物語るにしてはちょっとテンポ悪いとこもあった。
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