Kaji

まぶしくて ―私たちの輝く時間―のKajiのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

このドラマはネタバレで語るしかない。
まだご覧になっていない方は読まないでください。
これから視聴を始められる方はハンカチをご用意ください。
準備しなければ、袖がべしょべしょになります。




前〜中盤は、不思議な時計の力によって過去に戻れるヘジャが父親の交通事故を防ぐため力を使い、浦島太郎のようなタイムパラドックスの負荷で劇的に加齢してしまった(ハンジミン→キムヘジャ)が、突然の老いをどう受けとめ、「気になるアイツ」のイ・ジュナと付かず離れずのコメディタッチかつハートフルな展開。
イジュナ(ナムジュヒョク)に不幸が続き、彼の辛さに同情し応援し姿が変わった自分に気付いてもらおうと奮闘する。サブラインの恋愛もすごい可愛い。

ところが第10話で「チャンス商会」並のスピンががかる。
なんとこのドラマ、前半ラブコメ中盤はロマンス、で10話で「チャンス商会」になり、オーシャンズのようなおじいちゃんおばあちゃんのスクワッドが救出劇をして、、、ラスト2話で山田洋次の「母べえ」がミックスされるとんでもないジャンルミックスドラマだった。ちなみにラスト2話はずっと泣く。泣いてやんねぇって思ってても泣きました。
(山田洋次の「母べえ」は日本の軍国主義下で夫が反体制と決めつけられ拘束され獄中死する妻の一代記で、寅さんモードを一切排除した社会派の映画、過酷な人生を耐え抜いた吉永小百合が病院のベッドの上でずっと秘めていた「父べえに会いたい」と言い臨終する)

そう、終盤2話で詳らかになるヘジャの病気。
この不治の病の記憶の混濁が前半を形作っており、ラスト2話でわかる要素が10話までのエピソードと連携しているとわかる、緻密な脚本。
しかも、前半で引っかかってくる整合性のないシーンも補完される。
(トランクに入ってアフリカに行っちゃうお兄ちゃん以外→でもこれも繋がるんだよね)
今、「ナビレラ」や「ファーザー」などアルツハイマーの表現の切り口が広がっているけれど、このドラマでは進行する病変を周りもヘジャ自身もマイナスに捉えず、ある時は過去を反芻して隠されていた想いに気づいたり、贖罪をしたり、家族愛がたくさん描かれていて、もう泣ける泣ける。

とにかく、嫁のイジョンウンと不慮の事故で足を失ったアンネサン(息子)が超超超いい演技を見せてくれて、例え不遇だと思っていても必ずわかる時がくるんだよって。
そして、どんな時もフレッシュなハンジミンと世代を超えた2役と現代になってからの先生の役を演じ分けたナムジュヒョクも、韓国のどこかで人知れず苦労を重ねた2人の愛情を見せてくれて、光っていた。
キムヘジャはさすが大女優、一つ一つ重みがすごい。
キャスト
そこに、すごい肌感と体温があるセリフたちが散りばめられていて、臭くなくごく自然に染みてくる。

韓国は80年代後半の軍事独裁政権だったので、朝鮮戦争と独裁を経た抑圧と民主化の記憶を持った人々がまだご存命で記憶が固いというか、「あの時代に戻ってはいけない」という意識が高いのかなと僭越ながら思っている。
 「国際市場で会いましょう」や「大統領の理髪師」や「1987ある闘いの真実」「KCIA」「はちどり」を見た後なら、理解が深まるかもしれない。
Kaji

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