HicK

ファルコン&ウィンター・ソルジャーのHicKのレビュー・感想・評価

3.8
《詰め込み過ぎたストーリー。
しかし意義のあるカッコよさ》

【世界観の踏襲】
「キャプテンアメリカ:ウィンターソルジャー (W.S.)」の演出を踏襲し、「ブラックパンサー」の移民・人種テーマを拡張したような世界観。

【5年間を活かした舞台】
消えた人々が戻ってG.R.C.世界再定住評議会が発足したという発想が面白い。難民問題と人種問題を絡め、両者に共通する不遇の立場を結びつけた展開。難民は国から拒まれ支援が滞り社会から隔離される。黒人であるサムは融資を受けれず、何もしていないのに職質をかけられる。国境と人種という共通の壁。

【サムの葛藤】
正直冒頭のサムの決断は今までのちょっと生意気な彼(少なくともバッキーに対しては)からは想像できない決断だった。が、刷り込まれた社会の価値観を想像すると納得。盾を預けても活躍はできる訳で、必要以上のリスクを排除でき、結果的に"謙虚"というプラスの評価も伴うなら自分もそうしてしまうかも。そんなサムに反して「盾の寄贈に感謝する、正しい決断だ」という国防長官とその後の配慮の無い任命が腹立たしい。

【一旦、ファンに盾を返す】
また、この選択はメタ的な演出にも感じる。当然観客は「キャップ=スティーブ」なので、そんなファンたちにサムがいったん盾をお返しする。そして、ファンは「ムカつくジョン」と「偉大なレジェンドと人種の壁で苦悩を抱える謙虚なサム」の二人の候補者から改めてキャップに相応しい者を選ぶ。色々うまい。

【バッキーの贖罪】
彼の罪滅ぼしが描かれる。謝罪でも復讐でも無い「本当の贖罪とは?」の答えが好きだった。サムとの関係は数々のバディ作品をオマージュしたようなデコボコさ。ただ、終始コミュニケーション不足で子供のように口喧嘩をする彼らは、実は個人的にはそんなに好きではなかったりする。「話して!話し合おう?」と言いたくなるMCUカラー。その裏で実はサムにキャプテンアメリカになって欲しいと思っていた彼だが、あとちょっとだけ醸し出して欲しかった。

【ジョン】
序盤のジョンはむしろスティーブに近い正義感や真面目さ。サムとバッキーのイライラによって彼が豹変していったという印象。結果的に彼にもイライラさせられ、良い意味でムカつく奴。その演技の加減が絶妙だった。

【ラストの演説】
権力者へ「力の使い方」を諭すサムの演説は感動的だった。国防長官から「お前には現実が分からない」と言われてしまったサム。しかしそれは逆で、権力者たちが弱者の立場を理解していない事を意味した言葉。権力者たちの常識で決めるのでは無く、あくまでも当事者たちが主役。当事者が理解できない"常識"で作られたルールに意味は無い。そのシーンで今作の評価が爆上がり。「人を助けるために力はある」というメッセージはバッキーの贖罪にも共通していた。

【演出】
1話の空中戦、2話のトラック戦が好きだった。「W.S. 」同様にカメラのブレや荒いフレームレートの演出でスパイ映画同様のカッコよさ。同作から引き続きバトロックが登場した事も驚いた。また、言うまでも無くラストの新キャプテンアメリカのデザインもカッコいい。音楽も渋い。雰囲気が好き。字幕と吹き替えで2回鑑賞したが、サムの吹き替え声優が交代されていて、個人的には溝端淳平よりもしっくりきた。

【一方、てんこ盛りのストーリー】
サイドストーリーがてんこ盛り過ぎて、サムとバッキーのストーリーが度々ストップしていた印象があった。また、事件の手がかりも荒いものが多く、サイドストーリーの挿入も相まって、何のために何を追ってるのか、なんでこの人物はここにいるのか、など迷子になってしまう場面が自分には多かった。

【全話通してのサムの信念】
サムがシールドを寄贈した理由を「白人に言っても絶対分かってくれない」と言うかのように誰にも(視聴者にも)打ち明けてないのは納得もできる反面、今作の根底にある彼の意図や信念をくみ取るのが難しかった。バッキーとのケンカの子供っぽさも相まって、佳境に入るまではサムが「考えが読めない生意気なやつ」にも見えてしまった。せめて冒頭のローディには打ち明けてくれていれば、もっと彼に肩入れしながら見れたと思う。

【カーリ】
彼女の言っている事は正しさもある。しかし、信念と行動が一致しない。「罪のない命を…」とG.R.C.を非難する彼女は自分も同じ事をしている。彼女のメッセージを踏まえると罪のない人々を殺めてしまう爆破テロは相応しくないように感じる。若さからくる危なさなのかもしれないが、物語が進むたびに目標に近づいていくのでは無く、どんどん離れていった印象だったので、もったいなかった。

【総括】
シリアスな雰囲気や「W.S.」の演出の踏襲は好みだったが、やっぱりサムやバッキー、カーリのメインストーリーと多数のサイドストーリーが絡み合い、変に複雑化してしまったのが残念。それでも掲げたテーマ性に対して、最後の演説で答えを見せてくれた事に大きな意義があった。同時にキャプテン・アメリカがサムである意義も生まれて、彼がよりカッコよく見えたラストだった。そして、新キャップに関してファンにナンセンスな議論をさせないという今作の目的は素晴らしい。マーベルファンとして治安を守ってくれた事に感謝。スティーブもカッコいいし、サムもカッコいい。
HicK

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