みや

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまうのみやのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

【形ないものの輝きを】

「時に人生は厳しいけど、恋をしているときは忘れられる。恋をして、そしていつかたった一人の人に出会えるといいね」。

福島から上京して引越し屋として働く曽田練(高良健吾)は、友人が北海道で拾ったカバンの中から一通の手紙を見つける。

中身を読むと、死期の近い母親が娘に宛てたメッセージが記されており、大切なものだと悟った練は北海道まで届けに行く。

しかし、落とし主の杉原音(有村架純)は義理の親に好きでもない男と結婚するよう迫られており、練のトラックに飛び乗って身体一つで東京へ逃げ出すことになる。

地方から上京して懸命に生きる若者たちの日常生活と恋愛模様を描いたラブストーリー。

本作において坂元裕二は、若者の貧困問題について現実に即した描写を重ねている。

練はだまし取られてしまった祖父の大切な福島の畑を取り戻すために、安月給ながら文句も言わず働き続ける。

音もまた、人手不足の介護施設で労基を超えた長時間労働を強いられるも、懸命に仕事と向き合い、東京で自分の部屋を持てるようになる。

一方で、練の恋敵となる介護施設の御曹司(西島隆弘)との貧富の差が、残酷なまでに対比して描かれる。

また、本作は2011年から2016年までの物語で、震災前後で登場人物の生活や心理描写が一変する点が特徴的だ。

震災後に練の祖父は認知症を患い、人が変わったように罵詈雑言を吐いて亡くなってしまう。

祖父の惨めな最期にショックを受けた練は、悪徳人材派遣会社の仲介役に手を染めるも、音によって救われる。

しかし、今度は音の育ての父が亡くなったことで、一人残された義母を介護するために音は北海道へ戻る選択をする。


「杉原さん、振り出しじゃないですよ。前にここで会った杉原さんと今の杉原さん、全然違います。苦しいこともあったけど、全然違います。変わってないように見えるかもしれないけど、全然違います。人が頑張ったのって、頑張って生きたのって、目に見えないかもしれないけど、心に残るんだと思います。杉原さんの心にも、出会ってきた人たちの心にも、僕の心にも。北海道、遠くないです。何回でも来ます。道、ありますから。そこ走ってきます。車でも、電車でも。会津に行く約束だって、まだ果たしてないです。猪苗代湖だって見せたいし、じいちゃんの種の大根も食べてもらいたい。道があって、約束があって、ちょっとの運があれば、また会えます」

「会える」

「僕も杉原さんのことが好きです」

「はい」

練と音が東京で過ごした日々は決して無駄ではなく、たくさんの人と出会い、恋をし、そして懸命に生きた思い出が心の中に残り続ける。

ファミレスで交わされる二人の温かい会話が胸を打つ。

観覧車に乗ることはできなかったが、ライブハウスの音漏れを聞いて心ときめかせた二人の恋。

アスファルトの割れ目で健気に咲く花。こたつの上で二人一緒に作ったたこ焼き。皆で箸をつつきあった鍋。

決して裕福ではなかったが、日常の中に潜む小さな幸せの数々に気づかせてくれた作品だった。

 × × ×
第7話
「あたしたち、死んだ人ともこれから生まれてくる人とも一緒に生きていくのね。精一杯生きなさい」
みや

みや