Ryu

MAHOROBAのRyuのレビュー・感想・評価

MAHOROBA(2021年製作の映画)
4.0
NetflixやYouTubeのようにありとあらゆる映像作品が一つの画面上でアルゴリズムに基づき等間隔に並べられている現代において、映画を愛した人々が何をもってそういった時代での映像制作に立ち向かうのか、その一つの答えがこの作品の中で示されているような気がした。
この作品は紛れもなく監督の「個人的な(映画)体験の記憶」に基づいて作られている。もはやこの短尺であることを考えると暴力的なまでのサンプリング量であることは間違いないが、この短尺という点を逆手にとってそれらが鑑賞者の映画の記憶と結びつきながら主人公の人生の時間と映画の歴史を横断していく快感が確かにそこにある。
それを大きく手助けしているのが音楽と映像の組み合わせ方だ。鑑賞中とにかく気持ち良いし、格好良い。(選曲がそもそも好み)音楽はカットの切り替わりのリズムだけではなくて、キャラクターの動き、窓の明かりの点滅など細部に渡って演出されているのが見て取れる。映像の質感が切り替わり、アスペクト比が変化しまくってリズミカルで軽妙なのに、不思議な重みが乗っかっているのは主人公の生きている鬱屈としたストレスフルな日常が描かれ、スクリーンを通してパンデミック時代を生きる我々の姿と重なりつつ、監督の祖母の記憶が作品の中に織り込まれているからなのだろうと思った。偉そうにつらつら述べたけど、とにかく格好良いのでYouTubeで観てみるのが良いと思います。



以下ネタバレ



途中まで亀と祖母の姿が重ねられていたのに、最後の主人公の見ていた走馬灯のような場面でなぜか戦争のモチーフがいくつか用いられているのに引っかかって色々考えた。
あの瞬間は現実の祖母の生きた時代と現代を主人公の死に重ねて、それが最後の「苦しい時代だったのに」という台詞の中で一つになっているのかな、と思いました。

個人的に好きだったのが、ギャスパー・ノエぽい演出で桃源郷的な場面から主観視点で世界から離れていく様子が描かれる場面。もしかしたら死の瞬間はああいう風にミクロとマクロが入り混じりあう光景を眺めることになるのかもしれない。
次の作品も楽しみにしてます。
Ryu

Ryu