真一

MAHOROBAの真一のレビュー・感想・評価

MAHOROBA(2021年製作の映画)
3.6
死んだ方がマシな日本社会。
だから、みんな死ぬ。
そして、ぼくも死ぬ。

13分の本作品から、こんな
メッセージを感じ取った。

そりゃあ、そんな気持ちになるよ。
営業ノルマと上司の怒鳴り声に
追い立てられ、帰宅後に一人で
発泡酒をすするような毎日なら、
今すぐにでも人生やめたい
と考える人は、以前から
相当数いると思う。

そして2020年にコロナが発生。
景気は低迷し、
自殺者数が増加した。
人々の「死にたい」
という思いを
加速させたのは間違いない。

本作品は、コロナウイルスを
「自殺菌」と名付けることで、
 そうした悲惨な現実を
観る人に思い起こさせようと
したのではないだろうか。
表現が適切かどうかはさておき、
狙いはよく分かる。

切ないのは、無人島から
救出された後も幸せに
なれない主人公の人生だ。
ロビンソン・クルーソーは英国に
戻った後、冒険家として恵まれた
日々を送った。
でも本作品の主人公は、違う。
背広を来た企業奴隷たちに
かろうじて支えられた、
この明日なき日本に耐えきれず、
無人島に戻ってしまうのだ。

主人公が、天国へ旅立つ時に夢見た
理想の生活は、妻と子供に囲まれて
コロナ終息のニュースを観るという
ささやかなものだった。

その程度の生活も国民に
保証できない無為無策の政府。
ラストシーンからは、監督の
怒りと悲しみが伝わってくる。

「まほろば」といえば、伝説の
理想郷。要するに桃源郷だ。

ただ貧富の格差が開き、
低所得層が急増している
今の日本では、所帯を持って
一軒家に暮らすこと自体が
遠い夢、すなわち
「まほろば」に
なりつつあるようだ。
本作品のタイトルには、
そんな思いが込められている
のではないだろうか。

無声映画や新聞の四コマ漫画
を参考にしたような描写は
新鮮で、オリジナリティーを
感じた。

見ごたえのある作品でした。
真一

真一