強く気高いライオンには、強欲な悪党から動物世界を守る使命があるー。こんなテーマに満ちたフルCG作品「ライオンキング」は、百獣の王に「世界の警察官であるべきアメリカ」の姿を見るようで、興味深いです。
ライオンキングは、豊かな生態系の守り手として登場します。偉大な王ムファサが、我が子シンバに対し、百獣の王の誇りと力はこの世界秩序を守るためにあるのだと教えます。「アメリカの誇りと力は自由主義世界を守るためにある」とする、スタンダードな米国人の発想につながる描写です。
この王家に歯向かうのが、ムファサの弟で悪党のスカーです。暗い野心に燃えるスカーは、王家の支配が及ばない谷に住むハイエナ一族と手を組み、王国を転覆しようとします。ハイエナたちが、自由や豊かさに挑戦する外国勢力として描かれているところが面白い!私は、アメリカ人からみたロシアや中国、イランを連想しました。
※以下、ネタバレ含みます。
シンバは最後に、ムファサを謀殺したスカーへの敵討ちを果たし、王座を奪還します。これにより「バランスの取れた食物連鎖システム」は復活し、荒れた大地に緑と水、小鳥のさえずりが戻ります。「百獣の王による覇権体制」は守られたのです。
ライオン王家が掲げる秩序は、調和の取れた弱肉強食システムですから、もちろん草食動物の一部は肉食動物に食べられます。でも本作品では、シマウマやヌーも、ライオンによる統治体制を熱烈に支持しています。「ある程度の犠牲を伴う競争社会」を、負け組も含めて受け入れていくのが美しく、フェアな世界だとする価値観が、透けて見えます。
同時に「パックス・ライオーナ(レオナ?)」=ライオンの統治によってもたらされる平和=を否定するハイエナ軍団を、絶対的悪として描いているのも面白い。正義のライオンは、自由の敵ハイエナの討伐を宿命付けられているのです。まさに「正義のために戦うアメリカ、ここにあり」です。
このように見ると、アメリカの基本的価値観は、二度と不幸な戦争をしてはいけないという「不戦の決意」からスタートした戦後日本のそれと、大きな隔たりがあるように感じます。そして日米同盟はどこへ向かうのだろうか、という思いにも駆られます。いずれにせよ、想像力を刺激してくれる本作品は、実に見応えがあります。
なお、本作品の素晴らしい映像についての感想は、多くの方がレビューで触れているので省略しました。まさに圧巻でした。