みおこし

ことりのロビンのみおこしのレビュー・感想・評価

ことりのロビン(2021年製作の映画)
4.0
『ウォレスとグルミット』シリーズや『ひつじのショーン』シリーズなどで知られる、英国最高峰のスタジオ「アードマン・アニメーションズ」の最新作。
ひょんなことからネズミの親子に育てられたコマドリのロビン(ネズミになりたくて頭の毛を逆立てて耳を作ってるのがたまらない!笑)の自分探しを描いた物語。

アードマンと言えば、あのクレイアニメーションのイメージが強いけれど、本作はフェルトを使ったキャラクター造形でイメージを一新。というのも、今回監督を務めたのはアードマンの歴代クリエイターではなく、ダン・オジャリとマイキー・プリーズという新進気鋭のクリエイター。ふわふわの質感や光の当て方にこだわったというフェルトでできたロビンやネズミたちはとってもあたたかみがあって可愛らしい。シンプルながらも表情豊かな彼らを毛糸玉から形作り、1コマ1コマ動かしながら緻密に撮影していくという細やかな行程は本作でも健在。背景に写る雪や花火、水の波紋に至るまで、どこを見渡しても思わずため息が出る美しさとリアリティで、たった32分という尺ながらたくさんのスタッフがこの映画に多大なる時間と労力を捧げてきたかを思うだけで胸が熱くなります。

さらに特筆すべきは、本作がアードマンにとって初めての本格ミュージカルであるということ!とはいえ、声優として参加したジリアン・アンダーソンやリチャード・E・グラント他がささやくように歌うフォーク風の楽曲がいっぱいのサウンドトラックは、アメリカのミュージカル・アニメーションとは全く異なる、落ち着いた雰囲気の曲調。作曲を務めた夫婦デュオ「ブックショップ・バンド」のベン・プリーズは、前述のマイキーの実の兄弟とのことだが、それもあってか映画との親和性たっぷりの素敵な音楽になっています。なお、ジリアンは邪悪なネコを演じていて、珍しく悪役として登場。多忙なグラントが演じたマグパイ(カササギ)も、ロビンに空を飛ぶことを教える重要な役回りで印象的でした。実はこの役、コンセプト段階で監督たちが描いていたイメージは映画『ウィズネイルと僕』に出てくるウィズネイルで、壁に写真を貼っていたんだとか。何を隠そう、この役をかつて演じたのがグラントなので、スタッフにとっては念願のキャスティングとなりました。

「コマドリとしての自分」と「ネズミとしての自分」の狭間で葛藤するロビンの物語は、全世界共通の普遍的なテーマ。”どんな自分も素晴らしい”という優しいメッセージとともに、長年培ってきたアードマンのクラフトマンシップを新しい形で表現した素敵なアニメーション。寒い冬にぴったりの、心をぽっとあたためてくれる作品です。
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