YUMI

金の糸のYUMIのレビュー・感想・評価

金の糸(2019年製作の映画)
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これは旧ソ連時代の政治体制というか社会制度を知らないと理解できない作品でしょうね。かく言う私も映画や小説で得たくらいの知識しかありませんが。
表現する者(作家)と、それを取り締まる者(政府高官)という、かつては到底相容れない立場にあったエレネとミランダ。しかし時は流れて社会情勢も変わり、二人は
エレネの娘の婚姻により親戚関係となり、さらにはミランダがアルツハイマーになった事から同じ集合住宅で暮らす事となる。
そんな状況になってもなお過去の栄光にしかみついてる感じのミランダとは対照的に、エレナは「今」を生きている。
家族ですらも覚えてくれている人がいない79歳の誕生日には若い頃のドレスを纏って一人で装ったり、日頃から体操を欠かさなかったり。
で、このエレナ役の女優さんなんだけど、ミランダが年相応のババアなのと比べても、すごく若々しい。あの赤い髪はとても自然の色とは思えないから、常に染めてるんだろう。
唯一、誕生日を覚えていてくれた元カレとの電話のやりとりで、エレナは若い頃から同じ髪の色だった事もわかる。
そのせいだけじゃなく、時々ドキッとするほど美しく見えるんですよね。
ミランダが、彼は昔自分を追いかけ回していたって話した時に、ちょっとムカついてたみたいなのもご愛嬌。
でもミランダの話しはほんとうにだったのかなあ?アルツハイマーの人って、恋愛妄想あったりしますからね(オエッ)。
そして過去にしか生きられなかったミランダは自分の居場所を見失なって徘徊。
結局彼女は過去と今をつなぐ金の糸を心に持つ事が出来なかったんですね。
エレナの本の出版を妨害したのがミランダだったと知らされ、その後20年も本を出せなかったエレナの恨みも、ミランダが大事な記念品を売り払って障がい者施設に寄付していたことを知って、少しは和らぎ、許す気持ちになったのだと思います。
そうやって今を生きるエレナは老いてなお美しく踊り続けるのでありました。
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