なつこ

渇水のなつこのレビュー・感想・評価

渇水(2023年製作の映画)
3.7
夏が詰まってました。
とにかくカラカラの暑い夏の空気がスクリーンからこっちまで溢れ出していた。
だから水道を止める作業を見てるだけで、なんだか喉が渇くような気がしてくる。

水も電気も止まった家で、帰らない母親を待つ幼い姉妹。
無邪気な妹を心配させない為に、笑顔で必死に頑張るお姉ちゃん。
見ていて苦しくなる。
どうして生活力のない子供を置いて出て行けるんだろう。

その家の水道を止めた2人の水道局員。
2人ともずっとこの姉妹のことを気にかけていて、でも、ふたりの考え方というかスタンスが全く違う。

2人がいたらアイスでも買ってあげようと思う気持ちは凄くわかる。
でも、中途半端に関わるのは逆に残酷なのではという気もするし、それは逃げているだけの言い訳な気もする。

岩切が姉妹から目を逸らしているのは、自分の家族から目を逸らしていることとシンクロしていて、それが終盤の行動に繋がっていく…。

岩切の向かい側の席に座ってた「停止業務が出来ない」と訴えていた同僚。
彼がかけた言葉は、岩切自身が気付いてない岩切の気持ちそのものだったのかもしれない。

岩切の起こした小さなテロ。
ホントに小さな波だけど、それでも少しだけ流れを変えることは出来る。
綺麗事じゃないし、ヤバい人に見えるかもしれないけど、私にはとても良いシーンだった。何も解決しないけど、なんだか救われた気持ちになった。

すごく良い作品なんだけど、なんだろう…何かが足りないと感じてしまった。
それが何かは分からないんだけど。
私が欲張りすぎなのかな。

でも、役者の皆さんはホントにめちゃめちゃ良かった。

生田斗真の石のように光の無い目指し、なにかにつけ「それで充分でしょ」と現状をただ受け入れる空っぽ感、まさに渇ききっていた。

そしてここにも磯村勇斗!
相方で後輩である彼の佇まいがものすごく「ちょうどいい」のだ。
口数の多くない先輩にも気にせず話しかけるけどうるさい感じはなくて、優しいけどそれを前に出すわけでもなくて、とにかく隣に立っているだけで「ちょうどいい」のだ。

監督と白石さんのスペース聞いてた時に、磯村氏は、ただ後ろに立っててと言うだけでドンピシャなポジションに立つ、というようなお話をされていて、さすが!と思いましたね。

いやほんとこの人の芝居って自然すぎて凄いって分かんないのがすごいと思う。
個人的に彼は今の邦画を支える名バイプレイヤーだと思ってます。

そして子役の2人。
姉妹には台本が渡されてなかったということですが、妹のずっと無邪気で笑顔な感じは台本を読んでないからこそなのかも…って思うくらいキラキラ眩しくて、終始可愛かった❤️

それを守ろうと必死なお姉ちゃん。
妹を安心させようとする顔、それを壊すような事を言う大人を見る目、最後の公園で見せた笑顔…素晴らしかったです。彼女はいい女優さんになる気がします。

公開が「怪物」と被ってしまったので、ちょっと陰に隠れてしまってますが、もっと観てもらうべき作品だと思います。
なにかが足りないとか言っておきながら矛盾してますがw

今日はガリガリ君食べながら帰ります🧊
なつこ

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