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渇水のotomisanのレビュー・感想・評価

渇水(2023年製作の映画)
4.1
 親にはぐれた岩切は水の匂いのする水道局員なのに渇いてる。親にはぐれたくらいだから我が子ともはぐれ出して今や家族と生き別れ。
 こんな岩切が水道局員だもんで、これまた親にはぐれつつある門脇姉妹と知り合ってしまう。わが子にもはぐれつつある岩切が他人の子どもの姉妹をどうやって救えるのだろう?いや、救えるなどと思って我が身を捨てるのとはちょっと違いそうなのだが?

 人の数だけ家庭事情があるのだろう。岩切は岩切なりなら、姉妹の母親、麦も麦なりの事情がありそうだ。そこら辺のこまごまには立ち入らないこの物語だが、麦なりに親にはぐれ、亭主ともはぐれ、一家の将来のためという事なんだろうが火と鉄の匂いのする男に寄り添う事で今また娘たちともはぐれつつあるのを止めることも叶わない。
 このみんなはぐれっ放しが何とももどかしいが、誰もこんなのうそだろうとは云えないんじゃないか?

 世間じゃ児童相談所は人員と人材の不足、家族の壁に気後れして動けず、警察も民事不介入の意識と当然人材もノウハウもないだろうし、生活保護は自治体にとって外聞の悪い話だし受給詐欺を疑い出したら申請者はきつねかたぬきにでも見えるのだろう。学校・教育委員会に至っては臭いものにフタでもしたいくらいだろうし、それらはみんな縦割りの塀の中で協力なんか間違ってもするもんかと頑張ってる、なんて思ってしまって、不躾な自治会役員、不躾でない人でも、あんなやさぐれ麦母を相手にしての後難を恐れてしまい、はぐれっ子姉妹には迂闊に近寄りたくないだろう。

 ならば上等、乾いた世間に泣きつくくらいならこっちからはぐれてやらあ、と万引き盗水の限りを尽くして姉妹もグレ始める。だから、渇いた者同士水道テロで岩切もグレてしまう。
 こんなことあり得るかなんて問うも愚かな事だろう。はぐれ切っていない麦家族だからこそ、姉妹は法を犯してでも麦母を拠り所に生きてゆくし、それが分かるから岩切も半壊状態の自身を壊しきる覚悟で規律違反で彼等に同調する。
 報道される行政の粗の数々が行政のすべてではないが、誰も「善処」を信じられないだろう中、あんなプチ水道テロの暴発を見せない限りこの話、収まりがつかないとは監督もよくよく困った事だろう。こうでなければ、あの姉妹、渇いて死ねばいいと誰が思うのか?

 ついでのように、岩切に渇き気味だった息子から海へのお誘いがかかるが、岩切の表情のぎこちなさにむずむずさせられる。渇ききったつもりが姉妹と自爆するくらいまだ生きていた岩切、水ッ気を帯びるにはゆっくり取り組まないといけないらしい。同じことは麦母もそうで、あの火と鉄の男にいつ本当の事を打ち明けるのだろう?はぐれる事で自立しつつある姉妹はいまや手遅れ寸前なのではないか?
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