サンヨンイチ

ハケンアニメ!のサンヨンイチのレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.2
新人と天才の対決。
王道のスポ根ストーリーを
アニメ制作に落としこむ。
吉岡里帆と中村倫也のなんちゃってコメディかと思いきや、
途轍もなく分厚い作り込みで
制作を描く映画、としての矜持をそこかしこに感じる。
実写作品でありながら
劇中アニメーションのクオリティが高く、
実写パートでは人間関係の難しさや葛藤を描きつつも
劇中アニメとのハイブリッドによって
躍動感が減速しない。

原作 辻村深月による、
劇中アニメ2作分、計24話のプロットがあり、
それを元に肉付けされたアニメーション、
(しかも本物すぎるアニメーターによる)
脚本、
(しかも本物すぎる脚本家による)
声優パートと、
(しかも本物すぎる声優陣による)

まさに目に見えない箇所、
目立たないような箇所での
努力と試行錯誤の積み重ねが
本作全体に染み渡る説得力を生み出している。

「作画が~…」
「続編より1の方が~…」

普段から知った風に批評垂れている作品は
多くの人々の人生の犠牲の上に成り立っていることを
目の当たりにし、
目から汗が滲み出てくる。


演者こそ、
いわゆる豪華俳優陣と称されてしまうような
良いとこ取りすぎるきらいもあるが、
どの方も完璧な熱演が
作品の熱を冷ますことなく演じきっている。

吉岡里帆といえば天真爛漫な役が多いが
本作では少し闇がかった、
発展途上だが骨太な社会人となっている。
『見えない目撃者』で魅せたような
凛とした美しさは隠しきれないものの、
奥に眠る芯の強さをクライマックスに発揮する
エネルギーの出力加減が絶妙な塩梅だ。

彼女以外の主要キャラは皆、
業界に揉まれ、ある程度生き方を見つけてきた
熟練さに満ちている。
そのせいか、ニヒルやアイロニックなキャラクターが多いが
それぞれの作品が佳境に入るにつれ
ひとつの成果の為に結実していく様は
どんな作品よりも熱い感動があった。

映画やアニメがめちゃくちゃ好きでもない層

に対しどれくらい刺さるのだろう、というところが
些か疑問であるが
エンタメ好きとしては
定期的にこうした作品が世に生み出されていくことで、
感謝の正拳突きを繰り返していくことができるのだ。