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冬薔薇のAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

冬薔薇(2022年製作の映画)
4.3

埋立て用の土砂を海底から掬い、ガット船と呼ばれる船で運ぶ海運業を営む渡口義一(小林薫)と道子(余貴美子)。時代とともにガットの仕事も減り、後継者不足に頭を悩ましながらもなんとか日々をやり過ごしていた。
息子の淳(伊藤健太郎)は服飾専門学校に入学するもロクに通わず、半端な不良仲間とつるみ、友人や女から金をせびってはダラダラと生きる毎日…。

閉ざされた世界で「ここではない何処か」を求めるも、足踏みし周り道し、結局何処へもたどり着かない若者。
老齢に差し掛かかり、悔やみきれない過去の出来事を抱えながら日々をやり過ごす大人達。

監督・阪本順治が市井の人々へ向ける優しい眼差は、この映画の主役に伊藤健太郎をキャスティングした事と(自分の中では)繋がった。
(人は過ちを犯す事もある。過去の罪を償い、反省し、以後も背負っていかなければならないとしても、誰もが再出発出来る世の中で有って欲しい。伊藤健太郎さんの作品をこれからも観て行きたい。)

終盤、主人公が友人を頼って倉敷に向かうシーン。それまでの淳の振る舞いの報いとはいえ辛い。若い頃の自分とどこか重なり、身につまされる。


現実の厳しささ容赦なく降りかかるってくる。
それでも、お互いを咎め、詰り合っていながら不思議とふざけ合っても見える義一と道子の夫婦(余貴美子の顔はもう人間国宝級に味わい深い)。
焼きそばやちらし寿司に海老が入ってるかどうかで延々と文句言い合いながら楽しそうにまかない飯を食う船乗り達。
彼らに人生の機微を見た。
捨てたもんじゃない。
まだ歩いて行ける。
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