ペトロニウス

RRRのペトロニウスのレビュー・感想・評価

RRR(2022年製作の映画)
5.0
正直星5(傑作級)ってなるべく出さないように(評価がインフレしないように)思っているんだけど、観た直後、いやはや、もう最高だよ!って叫びたいほどの、センスオブワンダー。自分の評価ポイントの最優先視点を上げると、悪逆非道な反大英帝国からのインド独立万歳物語!なんだけど、ほぼ同じ虐げられた先住民族ナヴィの独立抵抗運動物語であるジェームスキャメロン監督の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』と同じテーマの脚本なのに、なぜこちらはこれほど面白く、スカッとして、興奮するのだろうか!という驚きです。いろいろ考えていたのですが、

尊敬するノラネコさんが批評で、それはこの映画が、筋肉と熱血を描いた映画だから!(笑)と叫んでして、けだし納得。

>友情・筋肉・アクション・筋肉・ダンス・筋肉な筋肉至上主義の映画。
>劇場の気温設定が50度くらいになってるんじゃない?てくらい、めちゃくちゃ熱い。
ノラネコの呑んで観るシネマ
http://noraneko22.blog29.fc2.com/blog-entry-1559.html

超同感!

S・S・ラージャマウリ監督が、インド的映画表現の豊穣な土台から、アニメーションなのかCGなのか、一体なんなんだよそれ、と叫びたくなるような訳のわからい、言い換えれば、ハリウッドや日本の映画文脈では観たこともないような未見性に満ちた表現で、このご都合主義とも言える古く手垢に塗れたよくある話を、ドキドキワクワクするような映像表現に昇華していることが、この作品への深い満足度と面白さを与えている理由だと思う。

この表現の斬新さは、もう既にS・S・ラージャマウリ監督の様式美であり、『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ 王の凱旋』と表現に磨きをかけてきている。インド映画へのアンテナがある人ならば、6人くらいの盾を持った兵士が椰子の木カタパルトで空を飛び、空中で樽のように合体して回転しながら城内に飛び込む訳のわからない、しかしたまらなくカッコイイ有名なシーンを観たことがあるはずです。このアニメーションでないとできなくない!?というようなことを、実写で創造してしまうところの荒唐無稽さにこの監督の凄みがあります。

いわゆる香港カンフーアクション映画は、そもそも戦前の日本のチャンバラ映画をカッコよく伝播して、ハリウッドのアクション映画はこれを洗練させたものだと考えると、インド映画のこの表現は、それをさらにインド的想像力で、ぶっ飛ぶようなワクワク感(笑)に昇華したような感じと言えば良いだろうか。ハリウッド的な洗練さとは逆方向に振り切れた感じが、さすが。

例えば、ゴンド部族の守護者コムラム・ビームは、水でブルーの属性。インド人警察官のラーマ・ラージュは、炎で赤の属性。まるでスマホゲームのガチャでレアキャラが出てきた時のような登場シーンが、実写で再現されると、ウオォぉぉぉという熱量になって、物凄い勢いを感じる。この勢いと、インド的な歌とダンスと情熱と筋肉が絡まると、もう筋書きなんかどうでもいいぜ!論理なんか飛ばせ!というような「勢い」が溢れてくる。

キーポイントは、すべての誤解がシータ姫に出会ったビームの誤解が解けるシーン。親友であるラーマが、実は「祖国独立のためにすべての苦しみを耐えて我慢して悪逆非道のイギリス人総督に仕えていた」という重く深い背景を持っており、その全てを捨て去って自分を助けてくれたのだと、なんの回り道もなく「そうだったのか!!!!!」と筋肉的熱量で一気にわかってしまうウルトラを飛び越えるご都合主義の展開。この本来ならばマイナスになるようなご都合主義の安易さが、「だがそれがいい!」「そういうのが観たかった!」と感情的に心にブッ刺さってくる熱量こそ、脚本展開だけでなく画面の絵作りこそが、つまり筋肉こそがこの映画の本質だ!。だから似たような脚本構造の、ネイティブアメリカンへの贖罪を描くアバダー2が、なんだかもやっとする、しみったれた感じがするのに対して、荒々しい原初のプリミティブな面白さに溢れるんだと思う。

特に印象的なシーンは、イギリス的な洗練されたダンスで、インド人をブラウンの虫ケラめ!みたいに馬鹿にしてくる白人に対して、インドのガツンガツンとした筋肉ダンス(笑)で対抗するシーンで、バックグラウンド音楽を奏でるメンバーのうち、一人、黒人(多分どう考えてもジャズを知っているアメリカ人)がノリノリでビートを刻むのも、虐げられるもの同士の絆を、ストレートに描いて、もう、面白いのしょうがないよね的な環境を感じさせる。荒々しいのだが、全てに迷いがないストレートさ。それが、この映画の清々しさと面白さを支えている。

ちなみに言うと、大英帝国のイギリス人の描き方の、これもどかって悪逆非道は、振り切れている。ある意味、韓国や中国で描かれる反日映画のクズ日本人的な、ナショナリズムが極端にカリカチャライズされたものと同系統なんだろうと思うのですが、なんと言うか、あまりのストレートさ、衒いのなさ、迷いのなさに、清々しささえ覚える。まぁそれくらい、疑問の余地がないくらい大英帝国の支配ってめちゃくちゃだったと思いますが。にしても、迷いがない反英国姿勢。モディ首相のヒンズー至上主義な傾向があるこの時代背景としても、ここまで迷いがないと、いっそ清々しく後ろめたさがない。そうい言いつつも、ビームが身を装うときはイスラム教徒のムスリムとして身を隠していたり、非常に複雑なインドの背景の歴史の豊かさ複雑さを感じさせる。

そして、主人公は、ラーマ。なぜならばお相手のお姫様は、シータ姫。この時点で、W主役ではなく、インドの神話ラーマヤーナがベースになっているネーミングであることが、インド人の観客ならば、もう自明なんだろう。また、いろいろ調べてて驚いたが、主人公の二人も、そもそも実在の人物をモデルにインスパイアされている独立運動の伝説的闘士らしい。ああ、これは、インドの地方や歴史的人物などのベースの基礎知識があれば、何十倍にも面白くなる話なんだろうと、インドのことをもっと知りたくなる映画がだった。最高の映画体験。ちなみに僕は、渋谷のBunkamura ル・シネマのミニシアターで見ました。
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