Jellyfish

VORTEX ヴォルテックスのJellyfishのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
5.0
「心臓より先に脳が壊れるすべての人に」捧げられた作品。

冒頭、寄り添って眠る老夫婦の俯瞰、それがいつの間にか中央で左右に分割され2つのスクリーンになり、夫婦それぞれの姿を追いかけ始める。その舞台は、ビレバンのように大量の本と物で溢れる、狭苦しくて迷路のような間取りのアパルトマン。

どうやらここ3週間で急激に痴呆が進行したらしい元精神科医の妻。心臓に持病を持つ映画評論家の夫。たまにしか顔を出さずあまり頼りにならない、かつてドラッグ中毒だった息子。(こう書くと「家族という地獄」もののようにも聞こえるがそこにフォーカスは当てない。) そしてそれぞれが徐々に壊れ始め、最後には ...

2つのスクリーンは夫婦の姿を冷徹に淡々と映し出す。セリフのないシーンも多いのだが、スプリット・スクリーンがもたらす情報量の多さで、飽きることが無い。

いたずらに寿命が延びた現代にあって、老いて亡くなるとはどいうことか。
5年前に父を亡くし、半年前に母も亡くなり、このところずっと実家の後始末をしていた自分にとって実に切実なテーマ。真正面から撮られた2人のぞれぞれの死に顔が印象的。そう、人は死ぬと、生きていた時の顔の個性を失うものなのだ。
この夫婦はまだ威厳を保って最後を迎えられた方だと思う。

以下、パンフ (¥900) 情報
・監督のギャスパー・ノエは脳出血で倒れ、その療養期とコロナ禍が重なり、この間ずっと溝口健二、成瀬巳喜男、木下恵介などの映画を見ていた
・本作は「生きる」(黒澤)、「楢山節考」(木下) などに影響を受けた
・演技は、監督の指導のもと即興で行われた部分が多い
・建築映画作家の尾瀬憲司氏が、映画を見ておこしたアパルトマンの平面図が収録されている。これが見ていて楽しい。
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