三樹夫

グリッドマン ユニバースの三樹夫のレビュー・感想・評価

グリッドマン ユニバース(2023年製作の映画)
3.8
『SSSS.GRIDMAN』のその後で、『SSSS.DYNAZENON』はマルチバースという話。裕太は可愛いし、よもぎは相変わらずいい奴。
この映画でやろうとしていることは、『ウルトラマン』の最終回以後のハヤタを描こうとしている。ウルトラマンの依代であったハヤタだが、ということはウルトラマンがいなくなったハヤタは空っぽってことなのかという所から出発しているように思う。周りのキャラも視聴者も応援していたり好きになっていたのはウルトラマンの依代であったハヤタであり、ゾフィーと一緒に帰ってウルトラマンがいなくなったハヤタを今までと変わらない気持ちで応援していたり好きになったりできるのか、『ウルトラマン』最終回を観終わってハヤタに対するモヤみが発生する。設定がハヤタと同じ裕太だが、グリッドマンはアニメ版で自身の中からいなくなった。グリッドマンがいなくなってそこから裕太が自己確立を果たす話となっている。
どのように裕太が自己を確立するかというのでは六花との関係で描かれる。今まで六花が見ていた自分はグリッドマンの依代である自分なわけで、そこからどのように自己を確立していくのか。おそらく自分の中からグリッドマンがいなくなって六花は自分に対し興味を失っているんじゃないかみたいな引け目を感じていると思う。そして映画の構造的に絶対もう一度グリッドマンと合体するのは分かり切っていることで、そこの所でどうやって裕太という自己を確立させるかというのもある。自己確立に関しては恋愛と、自分にやれることをやるというグリッドマンがいようがいまいが裕太は主人公だったということだが、ここら辺はこれ以外に色々な要素があってキャラも全部出さなければいけないし、バトルもしないといけないし、合体もしないといけないしであっさり目になっており、もう少し深い描写があればもっとグッときたのになと思う。
監督はインタビューで、「裕太を深掘りしようとしたとき、そもそも今の(中身がグリッドマンではない)裕太のことが何もわからないことに気づいたんです。そこから、どうすればグリッドマンを救えるくらいのキャラになるかと考えた結果、告白は2年もできていないのに、自分が死ぬかもしれないという選択には即断即決するヤバい奴になりました(笑)。滅茶苦茶いいキャラになったと思います」と答えている。

この映画のマルチバースについては、マルチバースについてよくわかっていないとMCU感が漂う。新作作るための理屈で何とか捻り出してない?というところが特に。
その代わりファンが観たいもの全部乗せみたいなサービスがある。ファンのこういうのが観たいんだよを満たしていると思う。六花家に全員泊まったり文化祭前というので『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』感があるというか意識していると思う。ほんとこのアニメは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』好きね。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の文化祭前のワイワイ感をこのアニメでもやって、なおかつファンはこのシリーズのキャラで文化祭前みたいにワイワイしているのが観たいだろうし、ファンの観たいものが提供されているように思う。
ラスボスはゴジラ風味で、グリッドマンとゴジラが戦うみたいなサービスであろう。

登場人物が作られたバーチャル世界の住人ということもあり、フィクションについての言及がある。フィクションは作りものだがフィクションを観て心を動かされたこの感情は現実であるというものだ。
唯一アカネだけバーチャル世界の住人ではないが、アカネは特異な存在として作り手もこだわりがあるだろう。六花が文化祭用の脚本を作成していてアカネの部分が無くなっていること裕太が言及するシーンで、「一番伝えたいところじゃなかったっけ?」「でも分かりにくいって言われたしさ」ともの凄いメタなことを言っている。このセリフ通りに解釈するのであれば、『SSSS.GRIDMAN』ではアカネが一番伝えたいところだった、しかし視聴者からは分かりにくいと言われたということであろう。
『SSSS.GRIDMAN』におけるアカネは、気に食わない先公や同級生をこれでも食らえと怪獣差し向ける我々と同じ世界の人間、つまりこのアニメを観ている君たちのことだよということだ。『SSSS.GRIDMAN』はアカネのような人に向けて作られた。怪獣で学校を破壊したいという気持ち俺にも分かるんやというメッセージで、アカネはグリッドマンユニバースの創造主、つまりこのアニメを作っている制作者もまたアカネであり、アカネのように学生時代に怪獣で学校を襲う妄想してたような人がクリエイターになるというクリエイターの内幕披露でもある。
ただし監督はアカネを出したくはなかったとのこと。「一度完結したキャラなので出したくなかったんですけど、お客さんの期待値的に出さないわけにはいかず、でもやっぱり普通に登場させたくはないから飛躍した出し方にしました」とインタビューで答えており、それでこれ何のアニメだっけみたいなあんな風になった。
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