やぎ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのやぎのレビュー・感想・評価

3.5
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』鑑賞。
マルチヴァース×家族愛という組み合わせに弱いのでとても感動した。情報量は多めだけど、サン・ラックスの劇伴、下ネタを含めたコメディ要素、格闘シーン、オマージュを巧みに取り入れることで痛快なエンターテイメントに仕上がってた。

マルチヴァースがMCU的な壮大さとは違ったコンパクトな扱いだったのが上手かったな。でかいバジェットの作品が逆に安っぽく見える作品が多い今だからこそだね。エヴリンが救世主として選ばれた理由が「あらゆる世界線で一番ダメな人生だったからこそ、一番可能性があった」というロジックも良かった。

作品内でオマージュしてる作品も『マトリックス』、今敏、ウォン・カーウァイ、カート・ヴォネガットなんかで、監督のダニエルズがぼくと同世代(1980年代後半)のせいか、距離感がわりと近かったのも好印象だった。情報の編集がかなり計算されていた映画だなと感じた。スルメ度高いと思う。

サン・ラックスの劇伴はめちゃくちゃ良い仕事してましたね。オーケストレーションをはじめとして、様々な音響、音色の扱いがことごとく、使われているシーンにハマっていた。テーマ曲の「This Is a Life」も映画を観た後だと響き方が全く違ってくる。サン・ラックスにはアカデミー賞取ってほしいね。

自分の人生が、あらゆるifの持つポテンシャルがダメになって希望的な未来が待っていないように見えても、その先で人間は幸せになっていけるか、というテーマに対して堂々とYesと言って見せているのはやっぱりグッときたし、同性愛や移民のトピックと絡めて今の話にしている点もずいぶんと力強かった。

情報量過多に見えるけど、やりたいことはシンプルで、演出もサービス精神満点、情報=物語のコラージュ/編集も凝っていて、メタ視点もあって考察し甲斐もあるので、総合的に高い満足度を提供してくれるのではないでしょうか。ぼくみたいにダニエルズの演出が今作も含めて苦手な人でも楽しめました。
やぎ

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