映画初心者

すずめの戸締まりの映画初心者のネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

作品としてスコア3.5の凡作品です。ただ猛烈にモヤモヤしてスコア3.0

新海誠監督がクリエイターは加害者だという認識の薄さが如実に伝わってくる作品でかなり残念。神戸を舞台の1つにしながらも、阪神淡路大震災には劇中で触れず、地震に関する映画を作ったばかりなのに、監督は2023年にあったトルコ地震についてTwitterで言及一切なし。東日本大震災にしか興味がない。
しかも、実際に被害にあったわけでもない監督が、勝手に想像して作った主人公をベースに描き、恋愛・ミミズ・猫・椅子といった商業的なキャッチーさを優先させた結果、「鎮魂」的な描写がかなり薄く、そのテーマを扱う重みが一切なくなって、結果本当に良くない作品に仕上がっていると思います。

新海誠監督の最新作。う~んという感じでした。絶賛もしくは批判的な意見を両方目にした状態で鑑賞。結果、熱の入った感想を言えるほどピンとくる作品ではなかったです。

事前情報として知っていた肯定的な感想、否定的な感想は以下の通り。
【肯定的な他者の感想】
- 難しいセンシティブなテーマに挑戦した意欲作
- 感動して泣いた。明日を大切に生きようと思えた。
- 声が良い
- 美術が素晴らしい
【否定的な他者の感想】
- センシティブなテーマに深入りしすぎ。地震をエンタメに昇華するな。
- 懐メロがノイズ
- ダイジンは結局なんだったのか
- 君の名は以前の方が良かった

以上の情報から「エンタメとして面白いけど倫理的危うさのある映画」という印象でした。しかし、その印象は鑑賞後に変化。倫理的な問題以前にそもそもエンタメ映画としてさほど良くなく普通という印象になりました。

まず、良かったところを言います。

【映画全体として】
2時間を感じさせないテンポの良さ。ロードムービーらしく色々なロケーションがあり絵の変化が良い。過去作以上にコミカルで、ギャグ顔が多くライトな雰囲気でした。

【シーン単位として】
コミカルなシーンの大半は上滑りすることなく、声を出して笑うほどではないですが良かった。特に車のドアが外れる一連。神戸で子供を見守るシーンが良い。和気あいあいとしている雰囲気が良かった。

【声】
神戸弁がとにかくうまい。子供2人の神戸弁っぷりはネイティブだと思います。深津絵里さんの宮崎弁も比較的良かった。それ以外にも主人公含め声の違和感が無かった。ダイジンの声も可愛らしい。神木隆之介さんは、君の名は、天気の子とはまた別の声色で演じていて、過去作を連想させないようにしていて良かった。

【アニメーション】
作画的な見どころはチラホラ。全体的にアベレージがほどほどで安定。
愛媛での夜の布団:ノンクレ沖浦 or 青山?
観覧車を止める主人公:誰が描いたか不明
終盤ノートをぱらぱら開ける主人公:小林恵祐
また、アニメーションの表現として椅子の3DCGモーションが良い。バランスを取りながら動く難しい表現をしっかりしています。そして、屋根から滑り落ちる椅子など、椅子ならではの動きもあって良かった。

すみません。ここからは否定的な意見です。

【映画全体として】
導入が速く突飛。宮崎駿監督のポニョのドキュメンタリーで「現実離れしたシーンを冒頭にもってくると観客がついていけなくなる」ことで悩む
シーンがあった記憶。今回はまさにそれで冒頭から現実離れしたシーンでついていけない。
てんやわんやの展開が多く、無理やり展開させている感じが否めない。クライマックスが無く、盛り上がりどころがわからない。クライマックスっぽいシーンでは唐突に怪獣バトルが始まり、監督が何を描きたいかわからない。果たして怪獣バトルは必要だったのか明らかなノイズだった。
ダイジンが結局何をしたかったのかがいまいち不明。映画の余白と考えても、自己犠牲の物語になっているように見えて映画のテーマと反している気がしました。

【演出】
BGMが先行した演出に感じました。そのシーンに寄り添う気持ちになる前にBGMがかかり、このシーンはこんな感じで見てくださいと指示をされた気分。

【音楽として】
テーマ音楽が無く印象的なBGMはありませんでした。君の名はなどではテーマ音楽が無いものの歌で補っていました。例えばスターウォーズと言えばこの曲というようにテーマ音楽がないとエンタメ映画として寂しさを感じます。
椅子と猫が追いかけっこをするシーンのBGMがシーンとあっておらず浮いていた。また一部BGMでは安っぽい音でチープに感じました。

【主人公の行動】
冒頭、主人公が靴のまま水の中に入るなど違和感のある行動。そして、一目ぼれした相手(椅子)を乱暴に扱い過ぎている。椅子の片足だけもちながら逆さに向けたりと、好きな人ならもっと丁寧に扱うだろうと思いました。本当に好きに見えない。

【アラームの設定】
地震アラームが鳴ったり鳴らなかったりするのはなぜでしょう。終盤で地震警報の画面が出ているにも関わらずアラームが鳴らない。チグハグさを感じます。また、アラームが鳴り終わる=地震が止まるという描写が複数あり違和感。

【映像として】
過去作以上に映像的魅力が少ない。いや、どうしてしまったんだ新海誠...と思いました。君の名は以降から美術に本人が手を全部加えないなど美術背景に力を入れなくなっていましたが、今回はほぼ凡庸な背景が続いていて監督の魅力の1つである映像美が失われてしまった気がします。

【方言】
監督が方言に拘ったと言っていましたが宮崎弁のイントネーションが違う気がしました。宮崎というより関西訛りのようなイントネーションでもっと宮崎は独特だぞ...と思いました。

【キャラクターデザイン】
男性がイケメンキャラという設定だけどイケメンに見えない。主人公がイケメンと言ってるからイケメンなんだなと思いました。誰が見てもイケメンとわかるような吉沢亮のようなデザインだと良かった。

【テーマ】
新海誠監督自身、地震の被害を直接受けたことがないにも関わらず、地震の被害者の主人公を描いているためオリジナリティが欠ける。自分自身が体験したことの一部を描くことでよりオリジナリティが出ると思ってるので、主人公が所詮みなが想像する被害者像でしかない気がしました。

【売れ筋を狙ってきている印象】
猫や椅子を登場させて「子供受け」、懐メロを出して「老人受け」、男女恋愛を出して「若者受け」をしている気がしました。監督は事前に老若男女楽しませる映画にしたと言っていましたが安直です。特に懐メロがノイズで、いかにもな選曲ばかり、そしてアーティストの似顔絵まであり、あぁ監督は自分と同世代の人間ぐらいにしか目をやってないんだなと思いました。

【無神経さ】
地震をエンタメに昇華するなと批判する気持ちはわかります。しかし、そもそも地震がテーマにも関わらず、神戸では阪神淡路大震災を描かないことに違和感がありました。そのテーマならば神戸を出さないで欲しかった。ノイズになってしまっていますし、監督は阪神淡路をどうでも良いと思っているんだなと受け取りました。
そして、監督が公開前のスペース(Twitter上の配信)で事前に地震アラームに似た音を告知した理由として、観客を怖がらせる意図が無いからとしていました。そのため、監督はアラームに関して無神経だと思いました。地震被害者の人たちに寄り添ってるようで寄り添っていない、その中途半端さが良くないと思います。

【宣伝に対する疑問】
事前にSNS上で地震アラームに似た音が鳴ると告知しています。しかし、所詮SNSで情報が流れて行ってしまうため予告で表示すべきでしたね。

<総評>
正直微妙な映画です。良いところは少なからずあるものの悪いところも目立ち、粗を隠せていない。クライマックスも盛り上がらず、エンタメ映画としてう~んと思いました。ただ退屈さはあるものの2時間さほど感じなかった、映像が流れていったという印象の作品でした。この作品を一言で表現するなら「作画パワーの無い鹿の王」

【余談】
どうせなら宝塚ファミリーランドを出してくれると関西人はみんな喜んだと思います。猫がデフォルメだったのは新海監督が猫好きだからでしょうね。天気の子でも今作でも猫だけがデフォルメでデザインの意味を感じなかった。

【追記】
この作品、ロードムービーというよりRPGという指摘は面白いと思いました。旅をする中で、2人の関係性が変化するわけでもなく、主人公が成長するわけでもない、旅先であう人々はただの移動手段もしくは宿泊先提供者でしかなくなってる。
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