美しく緻密な背景、距離をテーマとした恋愛物語で紡がれる青春時代の純粋な感情、詩的に浮かび上がる台詞、音楽とカットの親和性、こういった要素こそ、新海作品の最大の魅力だと思っていた。しかし、今回の『すずめの戸締まり』は、これらとは全く別種の要素（震災の記憶を残す/現実を受け入れ前に進むといった骨太なメッセージ）を含んでいる。映画を見た時、昔の作品からは想像もつかなかった展開だな、と意外に思ったのが正直な感想だった。しかし、新海監督の、年齢を重ねることで伝えたいメッセージが変化してきた、という言葉を聞くと、私としてはとても腑に落ちた。これまで少しずつ作品に込められていた要素が、はっきりとしたメッセージとして作品に描かれている、そういう印象を受けた。『君の名は。』でたくさんの国民に認知された監督が、そういう作品を作り、それが後世に残るということがとても意義深いと感じる。今回の映画は、年齢を重ねても何回も観たいと思う。
