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すずめの戸締まりのcarcのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

今や日本を代表するエンターテイメント作品の作り手になった新海誠監督の最新作。公開から1週間後ということで、東日本大震災を正面から描いた作品だということは知った上での鑑賞になりました。

本作をレビューするには、正攻法のエンターテイメントと、衝撃的ともいえるメッセージの両方に触れるしかありません。

まずエンターテイメントについて。イス(草太)とネコ(ダイジン)のカートゥーンは過去2作とはまた違う形で観客を楽しませてくれますし、各地で暖かい人々と触れ合いながら進むロードムービーはこの映画の進行上の核になっています。
千果のアドバイス(?)をきっかけに実行される草太とのキスは監督特有の気持ち悪さを残していますし、監督が絶大な信頼を寄せる神木隆之介演じる芹澤は観客の心をがっちりと掴んで離しません。

その上でこの映画を凄いものにしているのが直接的な震災描写とメッセージです。愛媛から神戸に向かう頃には、観客もこの2人が最終的に東北に向かうことに気付く訳ですが、辿り着いた先では現実で(我々はテレビや新聞の中で)見た大地震や津波の跡がそのまま映されます。
廃墟となった街で、2人はかつてそこに暮らした人々のことを想い、そして扉を閉める。映画の最後ではそれがすずめの記憶とも結びつき、扉を閉めたすずめは明日へと歩き出します。
監督は覚悟を持ってこれを描き、自分の責任において進むべき道を示します。事前に小説を発表したのには観客の心理的ショックを和らげる意図もあると監督は言っていましたが、入場者特典の新海誠本として企画書の一部を公開したのも、震災を真正面から扱う上での誠実さの現れと言えるでしょう。

個人的には、直接震災の被害を受けていない人間が、かつてそこにあった暮らしを想像し、自ら扉を閉めて(清算して)先に進んでしまうというのは傲慢な行為なのではないかと、すんなり受け入れきれないところもあるのですが、この「戸締まり」への思いは監督自身が歳を重ねるにつれて出てきたものということで、まだ若い自分とは感覚が違うところもあるのだと思います。

また、亡くなった姉からすずめを引き取った叔母の環とすずめとの関係は胸に響きました。ケンカの中で環がすずめに対してこれまで抱えてきた思いをぶちまけた後、仲直りの場面で「(確かにそう思ったこともあるけど)それだけじゃないから」と言うセリフは、今作の中で一番好きなセリフでした。監督はこれまで「恋」と「セカイ」を繰り返し描いて来ましたが、いつか「愛情」も描いてほしいと思わせるシーンでした。

監督のある意味での傲慢さと、それを攻撃的な作品にしないための誠実さによって、本作は多くの人に観られるべき大作になり得ているのだと思いました。
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