サンヨンイチ

すずめの戸締まりのサンヨンイチのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.6
震災をファンタジーで描くことの難しさと必然性。

『君の名は。』では直接描かなかった3.11を、
(それでもかなり想起させる構造ではあったが)
あえて、何度でも映像化する新海誠の精神には頭が下がるが、
日付を出し、東日本大震災だけを名指しして、
ファンタジーの一要素に組み込む必要がどれくらいあったのか、
そこに起こりうる今日の賛否がどれくらい予想されていたのかが
気になってしまう。

扉が開きミミズが出続けたことにより地震が起こるのか、
だとしたら東日本大震災も同じく
ミミズが発生し、閉じ師が失敗したということなのか。
人に忘れ去られた場所で扉が開くのであれば
震災などの災害に見舞われた土地で
毎回地震が発生してしまうということではないか。など、

ファンタジーの世界にリアルの被災が入り組んだことによって
解決しなければならない疑問が湧き上がってしまう。

他にも、
「ルージュの伝言」から「猫」と「旅」が想起されるということは
『魔女の宅急便』が作品として存在する世界ということであるが、
では、猫が喋るシーンの入り組み方がカオスになってしまう。
フィクションの世界の中でフィクション(とされる出来事)が
リアルに起こってしまうという多重構造。
作品内世界と観客である自分との距離感を測りかねてしまう。


画については綺麗。
風景を描かせれば新海誠作品に対する
懸念など見つかりようもない。
ただ、近年では
『鬼滅の刃』のufotableや
『チェンソーマン』のMappaなど、
いわゆる神作画というものがポコポコ現れるようになってきた。
無料で見れるアニメでも
果てはCMですら
アニメーションのレベルの高さが
ある程度求められる昨今、
新海誠作品だからといって、
その風景の細微さを有難がる観客がどれくらいいるのだろうか、と
邪推してしまう。
正直、個人的にはもう、
レベルの差が分からなくなってきているのだ。
『天気の子』では水・雨の見せ方が
とても綺麗で感心した覚えがあるが、今回はどうだろうか。

そうなれば、
これから求められるのは
近年の新海作品に通底するセカイ系の追求なのか、
SF要素を抑えたノスタルジックで淡い恋愛模様の追求なのか、
より一層、画の見せ方を増やしていくのか。
結局は次回作も見に行く気満々で楽しみにしているのだが
どんな磨き上げになっていくのかが気になってしまう。