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すずめの戸締まりのYKのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「死ぬのなんて怖くない」というすずめを観て、ああ、なんで新海誠はこんなに10代20代の気持ち(気持ちよりももっと大きな、意識のようなもの)がわかるんだろう、と思った。豊かな時代を歩んだ大人たちと比べて、自分たちは先行きの見えない将来になかなか希望を見出せないという感覚。その感覚の中枢には、幼い頃に経験した大震災という記憶が大きく存在している。

主人公のすずめは、宮崎の片田舎に住む高校生。はじめは明らかにされないが、彼女は被災者であり県外避難者である。そういえば、大学の先輩にも被災者がいたな、というのを思い出した。中学から大阪のマンションに住んでるけど、地元は福島だと言っていた。被災云々というのはその話を聞いて察しただけで、それ以上は何も聞いていない。震災をタブー視するような感覚だろうか。

すずめは宮崎から愛媛、神戸へと移動していく。これまで新海誠は東京メインあるいは地方⇄都市という構図を描いてきたが、今回の地方⇄地方という移動は視点が新しくおもしろい。昔は賑わってたらしき温泉街や遊園地。船、電車、車という移動手段。道中で出会う人々も、カラオケで流れる懐メロも、すべて知ってる!見たことある!な実感しか湧かない風景。逆に新海誠には、現代日本のすべてを描き切らないといけない、という呪いのようなものでもあるんだろうか・・・。映画上映中、実際に地震が起こって怖かったし(関係ない)。国民的作家としての宿命かもしれないが、この内容だけで10本ぐらい映画が作れそう。

アニメーション的な話をすると、技術量から言ってもはやセルアニメの限界クオリティ。これ以上の密度を求めるなら、もうそれは3Dの世界だろう。人間芝居は、どれも難しいカットばっかり。一方、黄色のイスはよく見るとCGモデルでできていて、コミカルな動きがアニメーションの本来的な表現に見えておもしろかった。予告の時点では、リアルな物語に入り込むファンタジー要素に不安があったが、観てみると、古代から現代までの日本をつなぐ手段としてのファンタジー、と捉えることができた。むしろ、震災というようなテーマをこんなにメジャーなアニメ映画に持ってきてくれて、ありがとうと思った。震災をエンタメに利用するなうんたらと言ってる限りは、一生、この記憶、過去、自分自身に向き合えないかも。

あえて作中の描写で疑問点あげるなら、すずめが震災当時描いた絵日記の中身。あれは黒塗りでほんとによかったのだろうか。というのも、昔『つなみ』という被災地の子どもたちが書いた文集を読んで、そっちの内容の方がダイレクトにショッキングだったから。まあ、そういういろいろを含めて黒塗りってことでいいんかな。
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