ソラアユム

すずめの戸締まりのソラアユムのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.9
題名:すずめの戸締まり
鑑賞日時:2022年11月20日
鑑賞方式:MOVIX川口
評価:3.9(MAX5.0)

『謹んでお返し申す!』


2022年188本目(劇場鑑賞41本目)

【良】
・新海印の圧倒的画力
 誰もが期待している部分ですが今作もご多分に漏れず。日常にある光景を圧倒的画力で描く新海作品には毎度感心させられます。今作でも特に空(というよりも星々が昼でも見えるため宇宙に近い)、海の描写が素晴らしいですね。海やフェリーの甲板で反射する光の描写がひたすらにエモいです。また、現実では”危ない、汚い、退廃的”というイメージが先行しそうな廃墟をアニメーションの魔法でジブリ的なファンタジー世界のように魅せる手腕に唯々感心させられました。奇しくも直近で公開された『雨を告げる漂流団地』が先に廃墟を美しくノスタルジックに描いてたため、インパクトはやや薄れましたが…

・導き手は自分自身
 今作は主人公のすずめが「喪失から立ち直る」というのが物語の一つになっています。心の傷を癒し、前を向いて生きていくために、他者のサポートや周りの環境も必要不可欠ですが、結局は自分の力で何かしらのカタチで折り合いをつけていくしかない、という普遍的なメッセージを、SF的仕掛けを駆使して表現する着地点は見事だったと思います。

【悪】
・作品内設定を現実に置き換えると…
 閉じ師の責務、後ろ戸を閉じる使命、地震のエネルギーを具現化した”みみず”の設定は、現実と照らし合わせると、どうしても引っかかる部分は多かったです。今作では閉じ師がマイノリティとして描かれており、作中では2名ほどしか登場しません(閉じ師が少ないから、日本は地震大国ってことでしょうか?)。つまり、彼らが「しくじれば」多くの日本国民が命を奪われる事態になりかねない。この重責を今回は、大学生と高校生の若者2人に背負わせるというのはいかがなものかと。そもそも、震災を含む自然災害が発生してしまうのは文字通り自然なことで、後ろ戸を閉じることで未然に防げてしまうというのがおこがましいのでは。それを防げなかったからといって、ある人物が「しくじったか?」と言う件は非常に気が重くなりました。この閉じ師の設定が、震災発生の責任(そもそもそんな責任は現実問題としてありませんが…)を一個人に押し付けているように見えて、少し引っ掛かりましたね。”みみず”を何とか後ろ戸の奥に閉じ込めておいたとしても、エネルギーをどんどん溜め込んで、いつの日か後ろ戸が開き、閉じ師がしくじれば、日本沈没するような気がするのですが…震災を防ぐのではなく、地震大国に住む日本人として震災とどのように付き合っていくのかという所まで描いて欲しかったというのが本音です。勿論、創作物(特にセカイ系ではあるので)のため、設定全てを現実問題として置き換えるのはナンセンスなのですが、今作は実際に起きた震災も扱っていたため、どうしても現実と比較して見てしまいました。”みみず”が地震エネルギーのメタファーではなく、祓うべき異形や怪物としての側面が色濃ければ気にならなかったのでしょうね。

【まとめ】
 エンタメ作品として大変面白かったです。引っかかる部分も多数ありますが、センシティブな題材に対して真摯に向き合おうとする製作陣の気概を感じました。監督にはこれからも今作のようなコントラバーシャルな作品を生み出し続けていって欲しいです。


以上