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すずめの戸締まりのtsutomuのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.1
観終わったあとの率直な感想は、
なんだかわからないけど素晴らしい作品だったとは言えない。だった。

自分自身3.11を経験した身であり、
前情報として震災の描写等含む作品だと聞いていたので、ある程度過激な描写は覚悟していた。
それを踏まえて作品を見てみて感じたことは、完全フィクションとして観れば映像美もあり構成も綺麗でいい作品だが、ノンフィクションの部分を意識してみるととても残酷な作品だと感じてしまった。

これまで震災をテーマにしたり、震災を暗示させるような作品は観てきたが、今回初めて辛さを感じたかもしれない。
観終わってから、なぜこんなに辛く感じたのか考え直したときに
①死が身近だと強調していることへの恐怖
②捉え方では震災が虚構に見えるという憤り
③結局恋愛要素を入れていい感じに終わらせてる
があったからではないかと思った。

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それぞれなぜそう思ったか説明すると
①では、物語終盤まで役割が不明瞭なダイジンが、大きな瞳に可愛らしい声で人が死ぬことをハッキリと伝える無垢さに恐怖心を煽られ、何もない日常・誰もが平然と緊張感なく過ごしてる中で地震は起こり得ると伝えられているようで事実ではあるが現実を突きつけられた印象だった。

また、これまで震災を題材にした作品に「シンゴジラ」「Fukushima50」などあるがどちらも実写である。
実写を否定するわけではないが、アニメーションに比べ実写は、バラエティなどテレビで見る俳優女優の姿があるため演じているという点が気になり、内容に集中できないことがたまにある。
今回アニメーションということでその点を拭って物語に集中したためより恐怖を感じたのかもしれない。

以上のことから
①死が身近だと強調していることへの恐怖
は作品としていい点だったと感じた。

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問題は②③である。
まず、
②捉え方では震災が虚構に見えるという憤り
については
先ほどの実写とアニメーションの比較にもかかるとこだが、震災が絵空事に見えてしまう点だ。
たとえば、震災をミミズと表現することや扉の内側(常世)に震災を受けた世界が広がっているなどSFっぽく描いていること、
テーマとしている割には震災被害後の描写が少なかったことが気になった。

ダイジンのことを不気味に描き、死をはっきりと提示し生死をリアルに描こうとしているのに、震災をリアルに書かなかったのはなぜだろうと感じた。
題材にしているのであれば、そこもはっきりと示してほしいと感じてしまった。
やるんだったら徹底的にやってくれという感じ。

冒頭でも書いた通り自分自身、震災を経験している。しかし、原発事故や津波による避難までは体験していないという状況だ。

そこまで経験してないのに大袈裟、自分勝手な感想だと思う方もいるかもしれないが
友人や親戚が原発事故、津波の被害に遭っていて自分はその状況がどんなに辛いものだったのかわからない部分があるので、せめて今作を通じて感じ取りたかった部分があるのかもしれない。
期待値が高かった分、拍子抜けした感じがしてしまい、少しショックを受けたのだと思う。

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最後に
③結局恋愛要素を入れていい感じに終わらせてる
について

すずめの自分勝手さに腹が立った。
残酷ではあるが、気持ちとしてはあのまま要石になったという終わりの方が良かったと思ってしまう。
幼馴染とか元々恋人とか家族とか深い関係ならまだわかるが、会って数日一緒に旅した人のために大勢を犠牲にする選択をした姿になぜこんな演出にした?となってしまった。
若さゆえの暴走とか、よくある恋愛映画の展開ではあったが、今作でそれをやるのは違う気がする。
家族を失った被災者からしたら吐き気がするのではないか?と感じてしまった。

最初から作品への少しのアクセントという感じで、ストーリーが進んでいたならまだいい。
あんだけ死を不気味に描いておいて、震災の描写も少しではあるが差し込んどいて、
後半には結局恋愛要素で綺麗さっぱりハッピーエンドっぽくしていたのがよくわからない。

実際の出来事をアニメーションで表現した作品の中に「火垂るの墓」がある。
あれは、最後には兄妹共に命を落とし、見た後に虚しさと戦争に対する自分自身の考えを持てるが、今作は最後が軽すぎた。
震災に対する考えを持つ以外に、すずめとそうたの恋愛模様への考えが入ってきて浅くなると思ってしまった。

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以上のことから、あまり高い評価にはできなかった。

人によっては素晴らしい作品となるが、見る人が見れば浅い作品に見えてしまう気がした。海外で評価されているが、果たして日本でも評価されるのかは微妙な気がする。

全体を通して、いろんな要素を詰め込みすぎて結局何を伝えたいのかは若干分かりづらくなっているそんな映画だとおもった。

映像のリアルさ描かれている情景は好きだったのでこの評価。
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