真一

すずめの戸締まりの真一のレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
2.9
 新海誠監督が「東日本大震災の記憶を風化させたくない」との思いを込めて作った作品のようだけど、なぜそう思ったのか物語の中で答えを出していない気がします。津波や原発への教訓に触れたわけでもない。遺族や被災者の思いを代弁しているようにも見えない。トラウマを呼び覚ましかねない本作品が「記憶の風化を食い止めるための、望ましい取り組み」なのかどうか、疑問に感じます。

 日本で繰り返される大地震は、死者の世界から這い出てくる怪現象「ミミズ」が起こしているー。本作品はこうしたファンタジックな設定の下、高校二年生の鈴芽が、不思議な能力を持つ大学生・草太、人語を話す子猫「ダイジン」と共に全国を旅し、ミミズに立ち向かうロードムービーです。

※以下、ネタバレを含みます

 そんな震災孤児の鈴芽は、九州の港町で暮らす母の妹・環の下で育った。幼い頃に地震で母を亡くした鈴芽にとって、草太やダイジンとの長旅は、期せずして「生みの母」を探す旅になる。行く先々で怪現象「ミミズ」を封じ込めていく鈴芽は、ラストで、母の死を受け入れられずに泣く「幼い頃の鈴芽」と出会う。そして母の形見として持ち歩いていた小さな椅子を「幼い頃の鈴芽」に渡し、自らは母の死を乗り越えていくという内容だ。

 引っ掛かったのは、成長した鈴芽が瓦礫の上で泣きじゃくる「幼い頃の自分」に対し、未来の希望を説く場面だ。被災者を励ますメッセージとみられるが、対岸の安全圏から放った「上から目線」の言葉に感じた。

 また、地震の発生理由を「ミミズ」という荒唐無稽なファンタジーに求めたことで、東日本大震災から何を学ぶかという視点を作品から排除してしまった。これでは、何のために「記憶を風化させるな」と訴えるのかが分からなくなる。

 さらに鈴芽や草太を含むキャラの作り込みが甘く、感情移入できなかった。映像は見応えがあったが、全体として残念な作品に思えました。新海誠ファンの皆様、ごめんなさいm(._.)m
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