ばろん

すずめの戸締まりのばろんのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0
『君の名は。』から始まった、災害をテーマにした新海誠作品は三作目にしてついに実際に起こった災害を織り交ぜた。

「戸締り」という行為へのテーマの持たせ方が上手いと思った。戸締りが本来出掛けるときや寝るときに部屋の窓や玄関の鍵を確かめるように、そこにはある行為をするための安心感や決心をつけるためにするのが「戸締り」の持つ意味である。その役割が震災を経た私たちにとっては、過去を忘れないことと過去を背負いながら今日を生きていくけじめに当たるのであると感じた。

過去二作では定番だったRADWIMPSの挿入歌がなく、代わりに懐メロが各所で流れていたことも過去を振り返ることをテーマとした本作に沿った選曲なのだろう。

3月11日。誰にとっても特別な意味を持つ日。あの日、あの朝、誰もがいつもと同じ1日が来ると信じて疑わず家を後にした。突然にして起こった悲劇と別れの苦しみは言うまでもなく、あらゆる人が深い悲しみに包まれた。鈴芽のように家族をなくした人がいると同時に、家族と別れた親戚を預かった環のような人も少なくない。彼女のような人々が向き合ってきた葛藤や奮闘を思うととても胸が苦しくなった。

未曾有の隕石落下から街を救った『君の名は。』、雨の止まない都市で生き続ける希望を持ち続けた『天気の子』。映画を通して災害と向き合ってきた監督が実際の災害を扱った本作で掲げたメッセージは、過去を忘れずに今を生きるということだった。東日本大震災から10年余り。その間にも日本各地で災害は発生し、更には史上最大規模の災害が起こることも予想されている現在。自分の身に降りかかるかもしれない出来事を恐れながらも、過去を忘れず過去から学べる教訓を胸に、今日という日を生きていく。
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