幽斎

ザ・ロストシティの幽斎のレビュー・感想・評価

ザ・ロストシティ(2022年製作の映画)
3.8
洋画の初夏の目玉として予告編が劇場でバンバン流されたが、正直チッとも面白く無さそう。私の趣向のスリラーでも無いし、まぁSandra BullockとChanning TatumとDaniel RadcliffeにオマケでBrad Pittも出てる。蒸し暑い京都の街から離れて涼みがてらに暇潰しに行ったが、思いの外観客が多くてビックリ。MOVIX京都で鑑賞。

本作は主演Sandra Bullockの持ち込み企画、映画製作が次々に中止や延期に為る中で、COVIDの閉塞感を打破する為にスカッと爽やかな肩に力の入らない作品を捜してた。彼女がプロデューサーを務めると聞いたSeth Gordonが「姉貴、良い物件が有りますぜ」それはドミニカを舞台にしたアドベンチャー+ロマンス+コメディな原案。Sandraも「あら、良いわね」トントン拍子で話が進む。

最初の相手役はRyan Reynolds「あなたは私の婿になる」以来の共演にSandraもご満悦だが、COVIDで延期された作品に立て続けに撮入りするスケジュールを理由に辞退。本音は「また裸でお尻を見せるの?、あのSandraに!」逃げた説が有力(笑)。其処で「お尻ねぇ・・・」と指名されたのがChanning Tatum。彼ならコメディも全力投球でReynoldsほどクドくない。ジャングル映画に立て続けに出るDaniel Radcliffe。彼は「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」以来、悪役優先にオファーを受ける。「スイス・アーミー・マン」「ジャングル ギンズバーグ19日間の軌跡」アウトドアが好きかも。

Brad Pittは元のスクリプトに無いキャラクターだが、出演には軽いトリヴィアが有って、先に製作が完了した「ブレット・トレイン」主演を務める彼は共演のLady Gagaにドタキャンされ、代わりをSandraが務めて無事完成。恩義を大切にする彼は本作に友情出演。彼がオーナーのPLAN B製作「ロスト・シティZ 失われた黄金都市」とは作品のテイストも180度違うが「The Lost City of Z」タイトルはそのまま頂戴した(笑)。カメオ出演らしく鮮やかに登場して綺麗に退場(笑)。カメオと言えばレビュー済「ドント・ブリーズ」Stephen Langも居たな。

予告編を見て大方の人は有る作品が思い浮かんだろう。それは「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」。アドベンチャー映画ほど、プロットがフリーハンドなジャンルも珍しい。「Aventure」アバンチュールはフランス語で「冒険のような危険な恋愛」と言う意味だが、実際の恋愛も冒険の末に結ばれる訳だから、相手に何を期待するか?、一歩踏み出すのも貴方次第、途中で後戻りしても良いし、違う人に変えても良い。何が言いたいのかと言えば恋愛には無限の可能性が有る。

痴れ言は此れ位にして(笑)、Kathleen TurnersとMichael Douglasが演じたロマンシング・ストーンを本作は徹底的に茶化したパロディとして創られてる。アドベンチャー+ロマンス+コメディをハリウッドでは「Screw ball」と言うが、野球の変化球と同じで浮き沈みが激しいと言う意味だが、プロデューサーのSandraは、1984年に作られたヒット作を大金を投じてハチャメチャに作り直すだけでなく、しっかり時代を見据えたジェンダーとセックスの関係を比喩した、アップデートも施してる。

ロマンシング・ストーンも結構なおバカ映画だが、本作もパロディを十二単の様に重ねたバカまっしぐら。風刺を効かせたギャグ満載で、一見すると何も考えてない様に見える。しかし、日本人には分り難いかもしれないが、BradとChanning のコンセプトを周到に見れば、ハリウッド・スターSandraの意図が明確に見えてくる。この点に触れて無い方も多いので、少しだけ真面目に考察したい。

Sandraが演じるのが小説家、つまり作品の中では常に女性が追い求める理想の男性を書いてる。Bradの役割は正にソレで小説「The Lost City of D」から飛び出した様にも見える。一方のChanningは、正にBradの様な存在に成ろうと悪戦苦闘するが、必死さが空回りして上手く往かない。此処でChanningの演技力が発揮されるが、注目して欲しいのは彼が演じてるのは、決して「俺が彼女を引っ張るんだ」と言う、男女の古い価値観に振り回されない事。ジェンダーフリーの考え方の1つに「Paternalism」が有るが、もう男性が女性を引っ張る時代でも無い。

Channingの行動特性を見れば、彼女を全力でサポートしたい。勿論女性を尊重して対等に接したい。でも何をしてよいか分らない。しかし出来る事は手助けしたい。何をすれば良いのか分らないので動揺する。自分の能力に自信が無い。「揺らいだ人」は世間には幾らでも居るのです。等身大の描き方が実にリアルでシュール。メタファーとして「男らしさを捨てる」おバカ映画を装っても、誇張されても、見る人が観れば透けて見える。

その象徴が「おケツ丸出しシーン」(笑)。此の為にChanningは呼ばれた訳だし、アップのお尻は夢を壊す様で悪いけどボディダブル。ロマンシング・ストーンも男らしさをギャグに置き換えるのは同じでも、本作は一歩踏み込んで「女性は男性に惹かれるモノ」と言う価値観を逆転させ、お尻だけじゃなく、お〇ンポも正面から見せる事で、自分の「立ち位置(意味深(笑)」を考える、そんな意味も込められてる。本作は男性の価値観のリブート「男が自分を見つめ直す」旅でも有るのです。

秀逸なのは「男はフェミニストを反省」と同時に、女性へのフォローも忘れない。Sandra Bullock、57歳の等身大を映す事で、もう1つのメタファー「心のケア」も描いてる。男性に惹かれる事を否定するのは「中年女性のメンタルヘルス」の意味も含まれる。セックスを匂わすシーンが1つも無い様に、女性は男に癒されるのではなく、宝探しを通じて「折れた心」と創作意欲を取り戻す過程が、意外と緻密に描かれてる。異国で白人が墓荒らし、と言う身も蓋も無いプロットは全部Radcliffe、アイツが悪いんだで片付ける。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

エンディングの「ヨガ」は本質を映したレトリック、何でBrad Pittが生きてるのか分らない人は本当に心根が優しい人なのだろう。それは映画の本編は全て彼女の「本」の中の出来事だから。ちゃんと伏線は丁寧に描かれてましたよ(笑)。
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