柊

ノートルダム 炎の大聖堂の柊のレビュー・感想・評価

ノートルダム 炎の大聖堂(2022年製作の映画)
3.6
私の視界からは久しく消えていたジャン=ジャック・アノー監督。まだご健在でしたか。でも多分80歳前後?それがこのような作品で私の前に現れるとは…全く驚きです。

「小熊物語」で私の視線を釘付けにし、「薔薇の名前」で忘れられない監督となり…「愛人ラマン」でちょっと肩透かしを喰らい、「スターリングラード」で賛否はあれど私の中では強烈な印象を放った監督である。
このところ全く出てこなかったから静かにフェイドアウトしたのかと完全に思っていた。

やっぱりフランス人としては記録に残しておきたかったのかな。850年という長きに渡りフランスの象徴のひとつでもあり、ある意味フランス観光のドル箱だった場所があっという間に炎に包まれる。幸いだった事は死傷者ゼロだったくらいで失われた文化財の損失は計り知れない。
火災の原因が寺院側の怠慢による部分、そして工事に携わる人々の緊張感の欠如。更にはパリという街の防火体制の弱点。そして何といってもパリ市民及び観光客の野次馬根性。それら全てがこの火災の原因だと思う。まぁ起こるべくして起こったと言っても過言ではないだろう。
いつかこうなる事を神は予測していたのかもしれない。なんてね…
だって,あれだけの貴重な建物及び宝物ザクザクなのに、鍵ひとつとっても昔のまんま。屋根裏などの清掃も全くと言って良いほどやってなくて埃が山盛り。鳥だって入り放題。最悪は修復工事に入っている人々の意識の低さ。タバコ厳禁なのに平気で吸ってるし,吸い殻どこに捨てる〜!って観てるこっちが大惨事になる事が予想できる。世界遺産なのに,何かあったら2度と戻らないのに…危機感は無いのか?と我が目を疑う。
私は法隆寺が火災により壁画消失した時の僧侶の茫然自失の映像が忘れられない。まるで魂を亡くしてしまったような後悔しても仕切れないみたいな哀しい姿だった。それくらい命と同じように感じていたのだと思う。
が、ここの関係者たちは警報よりもお金にこだわっていたように感じてしまった。その一端が冠の保管。レプリカとほぼ同じ場所に複雑な鍵により管理って…マスターは普通離れた場所に保管じゃないとレプリカの意味が無いのでは?それに唯一運び出せるならと選んだ冠なのに、ミサをやっていた関係者は手ぶらで逃げたのか?
後に1300点くらいの物は運び出したとあったから文化財それなりに運び出してたのか?でもその辺が今ひとつはっきりしない。とにかく1番大切な物が助かって良かったけど…とにかく杜撰だと思った。

そして消防車の進路をはばむ一般車両に野次馬。何だかなぁ。祈って歌うたうなら最初から速やかに道を譲ろうよ。

消防士さん達はみんな勇敢だったけど、いかんせん到着に時間がかかった上、放水が…あれじゃあ焼石に水。スプリンクラーが無いのにも唖然。
漏れ出した水がスプリンクラーみたいだったのが何ともです。

それにしても、まるで完全ドキュメンタリーみたいな作りにさすがアノー監督と唸った。もちろん本物の映像も使っているとは言っていたけど,それは多分引きで撮っている映像だと思う。それ以外は再現だと思うからその凄さ。改めて凄い監督だと思った。

文化財の保護、維持、活用って本当に大変。失って知る取り返せない物達。たとえ故意でなくとも経年劣化や環境による破壊等々守り後の世に受け渡すには途方もない努力の果てなのだと改めて思う。大事に守っていきたいものですな。
柊