柊

関心領域の柊のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.8
映し出される映像と意図する意味がこんなに乖離している作品はこれまで観た事なかったかもしれない。それ故に音響賞受賞は納得。音がこの作品の真実を語っている。

家族の豊かな生活、美しく整えられた庭、無邪気に遊ぶ子供達(いやそうとは言えないけれど)
視覚的にはそういう映像が淡々と流れる。
しかしその表面を彩る映像のセリフとは別にBGMとして常に流れている音は、いったい何?と最初から気になる。だんだん慣れてくるとそれは銃声だったり恫喝する声であったり、悲鳴?であったり…それが引っ切りなし昼夜を問わず聞こえてくる。
そして24時間フル稼働のように煙突から流れる黒い煙。
ヘスはもちろんだけどその奥さんも,きっと子供達も塀の向こうに何があり、何が行われているのかは知っている。

そういう事です。ヘスの転任が決まってもアウシュビッツでの生活を望んだ妻。
転任先で皆殺しの方法を夢想するヘス。

自分に害が及ばなければ人はこんなにも無関心になれる。そして略奪している事に何の疑問も持たない。洋服,下着,宝石…それらは全て生きた人間からむしり取ってきた物なのに。

エンドロールの音楽がトドメの一撃。こんなに長く聞かされると、映画館を出て明るい日差しの中に身を置いても目の前の現実が虚構に見えてしまった。

もちろん今の日本も正しい物は見えてないかもしれない。私達の知らないところで不穏な事が起こっているのは感じる。それを私達はただ黙って知らないふりをしていてはいけない…とは思うが、果たして私には動き出す事ができるのか?問われているのは観ているこちらだな。

淡々と開館準備の為にお掃除をするシーンも何気に怖い。
柊