空色のニットマン

TAR/ターの空色のニットマンのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.5
観終わって他の人のレビューを見て、疲れたっていう感想をちらほら見かける。いや、確かに疲れた。笑
なぜかってそれだけ主人公・ターの視点に縛り付けられてターの周りで不穏さを増していく状況に真綿で首を絞められるように絞り続けられるわけだが。。
とにかく没入させられて脳を、というか身体感覚をターにハックされた感覚。強烈な体験だった。。
難解だという声も多い。こちらに提示される情報が主人公・ターが見るもの、聞くものに限定されている。ターを追い込む物語的なメインの出来事についても、ターにとってそれは消し去りたいものであり、ターの視点ではチラッと見てすぐに目を逸らしてしまう。次々と現れるターを追い詰める要素もチラッと映ってすぐに目を逸らす。それを見逃すまいと、必死にターについていこうとしているうちに、彼女が置かれたヒリヒリとした状況を同じように体験させられてしまう。。
それはどういう体験だったか。それは観る人によって違うだろうが、なんてったって我々が同化するアバターは、かっこいいスタイルにキメてとにかく絵になりまくるケイトブランシェットだ。品もあり人当たりもいい。世界的な一流指揮者を体験させてもらおうと気持ちよく身を任せてた。しかし何かに追い込まれていく。その何かは常にはっきりとは明示(正確には説明)されない。それは、隠したい、恥ずかしい、人に見られたくない、自分の生の部分であり、観る人それぞれの中に個別にあるものだろうと思う。それと向き合うことほど嫌なことはない。でも避けられないものでもある。そんな生々しい体験を共有したターがこうやって頭にこべりつき続けるのも必然。行き着くところまで行き着いた先でも毅然とターたり続けるターの尊厳と、ラストの抜け感とのギャップに痺れている。洒落てる。ユーモアがあれば乗り切れるさ。