WillowMarrais

TAR/ターのWillowMarraisのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.3
スターダムを駆け上がった指揮者が転落していく話。
アケルマンやハネケなどの影響を強く感じるくらいには、随所にある映画祭映画的な文法が予期せぬものでよかった。

パワハラやジェンダーポリティクス、週刊誌による告発、「悪しき場所」としての芸術空間など多岐にわたるテーマが内在している。
「狂気」と喧伝されているからハネケの『ピアニスト』あたりを想像していたが、そこまでキツいものではない。
むしろ、それは誰にでも起こり得るアンガーマネジメントの類。
ストレスフルな職業なら尚更であり、主人公はその極地とも言える。
ケイト・ブランシェットがそれを体現してみせる。



やはり興味深かったのは
主人公が学生にバッハを称揚し、無調音楽を否定するシーンである。
それはあくまでコントロールできる範囲を要求し、指揮者=権力の頂点というナルシズムがあるのだろう。

ここに連動してレズビアン(トランス的にも映る)としてある種の女性性を廃し、男性的に生きている主人公はパンセクである学生に対しては過度にマッチョイズムをかざしているように見える。
その後も男性的とされてきた規範をモデルに彼女の生活は(自然と)映し出される。
彼女が褒めていた指揮者もみんな男。

この映画はきっとクィアが主題の映画ではないが、主人公のクィアとしての当事者意識のなさ(それはそれで不問として)やフェミニズムへの関心のなさは、指揮者=権力に守られた人間だからこそなのだろう。
このあたりの描写が興味深く思えた。



一極集中した権力がバラされる瞬間はいつだって大衆がその隙をついて刃向かって来た時だろう。
その意味ではキャンセルの検証云々よりも、大衆による嫌悪のダイナミズムのほうが力点になりそう。
それは止めどないものであり、止められないものである。
彼女から人がどんどん離れていったのは同情の余地のないほどのナルシズムと欲望が透けていたからかもしれない。





ラストは意見が割れそうなので
コメントのほうで書きます。
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