わたなべ

TAR/ターのわたなべのネタバレレビュー・内容・結末

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

映画を見る前にジャンル的には何に当たるんだろうかと軽く調べた。
その中でサイコスリラーという言葉を目にしたので、はて、サイコスリラー、うーんなんかサイコでスリラーな感じなのかしら。
それってどんな感じなのでしょう。
という前段を、自分の中で一幕やってから劇場にいくことになった。

映画を見終わった直後の感想としては、ほーむ、なんだかすぐに感想にするのは難しいわねという感じだった。

ターは明らかな成功者である。これ以上の成功などあるのだろうか?というくらいに既に成功してしまっている。
そして成功してしまっているからこその妬みや嫉みを受けることもある。有名になればなるほど、本来は巻き込まれたくないものから回避することが難しくなり、また例えそこが死地になることが仄みえていても、巻き込まれるしかないといった状況が多くなるのだろう。

よくて引き分け、勝ちがない。先につながるような負けかたこそが最善手のような闘いがごまんとある。などというのはナベタク氏のよく知れた常套句であるが、成功しすぎた先でさらに成功する、勝ち続けるといった困難さがそこにはあるのだろう。

さて、僕はもちろん自分自身が成功者だという自覚はないし、本作を見ているときにも、自分の身近な話のようには思えなかったし、職業や彼女が生きるその範囲にも大きな距離感があった。しかしながらもいわゆる共感と呼ばれるような感情は存在しており、ター自身の感情や行動に納得し、その生身の部分を見ることができたように思う。
決して身近ではないことや自分との距離感があること。そこに対して、自らが入り込み何かしら生身のものに触れられたように感じられたこと。ときに映像を前にしてドキドキと確かにスリルめいたものを感じたこと。
(冒頭の長く感じるようなインタビューや専門用語が飛び交う多くの対話の場面はそうさせるために確実に必要な情報だと思う)

いち観客であった自分とスクリーンとの間の距離を近づけ、さながらスリルを感じさせる至らせたこと。それに至るまでの徹底的な密度と強度があった。
ター自身がそうだったように、強く信じるもののために捧げられた作品であった。
わたなべ

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