Mina

TAR/ターのMinaのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.5
観終わってみると、TARという映画そのものもリディア・ターという人間もコインのように表裏一体な存在だったのだという感想に至る。構造的に面白く、頷かせる作品だったと思う。賛否両論と聞き及ぶけど、十分傑作。

まず分かりやすい映画の表裏一体さについて。こちらは線的な捉え方をしたい。①オープニングクレジットとエンドクレジットの音楽。②講演会・授業と言葉に埋め尽くされた映画序盤と音楽・表情を中心とした終盤。③ベルリン→ニューヨーク→ベトナムの舞台変化。④女性の襲われる声を聞くリディアと襲われるリディア。まだ思い出したら追記する。

リディア・ターという人間について。意外なことにこの映画、性的描写が一切ない。だからこそリディアという人間が最後まで掴めない。クリスタに本当は何をしたか?オルガにどんな感情を抱いたか?事実として決して明示されていない。映画そのものの表裏一体さに気づくことで、リディア自身にも同じものを見たくなる。この場合、表裏一体というよりも矛盾と表現した方が適切かもしれない。点的な捉え方。①批評は読まないといいつつ評価に敏感。②人の真似はするなといいつつオマージュのカバー写真を撮影。③誠実といいつつ人を蔑ろにしてしまう(これはそう見えてるだけかも)。④テスラを乗り回しつつ、古いソファを捨てられない。⑤ベトナムの女性売春に嫌悪感を抱く。など。

ストーリーとしては読み取りやすいところもあれば、謎が残る部分もありスッキリ感はない。とはいえ鬱映画か?というほどでもない。面白さは現代にある社会問題をミックスしたようなくどさ、映画そのものの構造と、それから本編95%くらいスクリーンに映り続けるケイト・ブランシェットの圧倒的存在感に集中しているのかもしれない。

時間が合わなくて川崎まで観に行った記念(オーケストラだし絶対映画館で観たかった)。
Mina

Mina