とりこ

TAR/ターのとりこのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.9
おもしろい。感想など ひと言ではとても言えないような、ただ””人間””がそこに在るだけであるような。

踏み込み具合に独特さ緻密さがあって、バイアスを誘い込まれているようでもあるし、逆にどの人物にも感情移入し切れないようでもある。色々な立ち位置からの見え方を行き来するスリリングな作品であった。
ター自体の幻覚幻聴もあり、一体どれが現実か、真実か。伏線が回収されるようですべて回収し切る訳じゃないのもいい。どれもが現実でどれも真実なのだ。

ターが世界的に成功した女性でレズビアンでありつつ相当に男性性志向があり、ホモソーシャルな価値観を背負い込んでいるのも興味深かった。ケイト・ブランシェットのクールビューティさも相まって大変に魅惑的な唯一無二、両性具有の美であるのだけども、時に一線を越え暴力的なまでに過剰な発露となる時、それは有害な男性性ともなる。物理的な性別では図れないのである。
ただ、世界的成功、自己実現を叶える過程で途方もない努力を重ねたであろうことも推し量れ、また主張の論理性正当性もそれ相応に感じることもあって、単純には断罪し難い。キャンセルカルチャーの危うさも伝わってくる。

ケイト・ブランシェットが「この映画はロールシャッハのようなもの」と言われたそうだが、まさに自分そのものが炙り出されるようである。


性差、立場を問わない””権力””の状景。わたし自身も含め、全人類して定期的にTARを摂取しては我が身を顧みるのがよいかと思われます。



(追記:切れ味の鋭いブラックジョークのようでもあるのがまた不思議な感触)
とりこ

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