しん

アンネ・フランクと旅する日記のしんのレビュー・感想・評価

3.3
Where "is" Anne Frank?という原題が示唆的ですが、本作はナチスによるユダヤ人迫害を描いているというよりも(それもありますが)、アンネ・フランクが現代社会でいかに「生きているか(生きていないか)」を描いた、かなりユニークな映画です。

アンネ・フランクは一種のコンテンツであり、生家や『アンネの日記』などは消費の対象です。そして遠いナチスの非道に憤りを感じながら、目の前で難民を差別するのが私たちです(ロシアのウクライナ侵略、そしてその結果さらに忘れられていくパレスチナやイエメンを思うと、切実です)。

過去を忘れないとはどういうことなのでしょうか、継承というのは博物館に綺麗に遺物を飾っておくことなのでしょうか。本作はそんな私たちを痛切に批判します。それをアンネの創造力と想像力に仮託してフィクショナルに作品化したのも白眉でしょう。

ただ個人的に残念だったのは、現代的な愛の物語を挟み込んだ点です。アンネの恋はいいのですが、現代パートの話を愛に収斂したのは悪手だったのではないでしょうか。これだと個人的な想いによる救済の物語とも読めてしまいます。
とはいえ、作品の出来やメッセージ性など十分に質の高い作品でした。
しん

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