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彼女のいない部屋のSPNminacoのレビュー・感想・評価

彼女のいない部屋(2021年製作の映画)
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朝早く、家を出て行ったクラリス。彼女がいない家で生活を続ける夫と娘と息子。2つに分岐しながらシンクロナイズする物語は、時間と場所が奇妙に曖昧だ。1人になったクラリスは言う。「家を出ていったのは私じゃない」
例えばベッドで眠る子をクラリスがすごく軽く抱えたのが気になったり、印象的なシーンが始めの方にいくつもあって、そこからの構成が非常に巧み。止まった時間の中で進む時間、不在の存在というのを、逆説的に物語るのが映画ならではだ。
金曜日、ライター、カセットテープやポラロイド写真。ピアノ曲、いつしかアルゲリッチになっている娘、電車、そしてあの古い赤い車(カッコよくて目を引くんだこれが)。意識の流れがシームレスに連なって、クラリスと家族は一つのレール上の平行線。どこへも行けるけどどこへも行けない、同じ場所にいられない存在は、そこにいる人の物語として現れる。
時間が止まってるのは雪と氷だからこそで、そこも巧い。時間と空間は冒頭へ円環し、部屋の窓からのもう一つの視点に切り替わったショットがとても良かった。儚げにゆらめく意識体としてのヴィッキー・クリープスありきだけど、監督マチューさんはこの残酷で優しい物語をショットで丁寧に構築してる。いい亡霊映画だった。
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