xo

ケイコ 目を澄ませてのxoのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.0
大きな東京の街における、小さな人々の交流や日々の営み。ただそれだけを静かに描いた作品。なんの飾り気もない。でも地に足ついた描写の積み重ねの先には、誰にとっても普遍的に感動できる瞬間が用意されている。

映画のようなドラマチックなことは起きない。物語はないに等しいというか、あらすじ以上の発展はない。
作品の語り口はかなり淡々としていて抑制的。劇映画っぽくないタッチ。生活音とともに日常の営みをじっくりと見せる。ドキュメンタリーを見ているかのよう
(というか、岸井ゆきのがスパーリングしてる様子は演技とかじゃなくマジなわけで…)。

でもそれでいて、それだからこそ、明らかに映画的といえる感動がある。
極めてシンプルなもの。自分のことを想ってくれる人がいることで、より頑張ろうと思えること。その頑張りがまた、他の人にも頑張ろうと思わせられること。想いの連鎖によって社会は成り立っていること。
何度も繰り返される、電車や自動車の暴力的なまでの走行音や、殺伐とした街の人々に代表される無機質なものと対比的するように、小さな営みの尊さが強調される。

当たり前だけど、聾唖者であることが感動のフックとして利用されていない。耳が聞こえないがゆえの社会との軋轢は表現されつつも、物語のコアの部分にはそれはない。
取るに足らない日常の営みを称えるものであって、誰にとっても実感できるような普遍的な強度がある。コロナ禍を背景に〜みたいな情緒的な解説もできるのかもしれないけど、10年前でも10年後でも変わらない普遍性があると思う。

クライマックスの河川敷のシーン。吉田恵輔「空白」の奥野瑛太のとこだったり、「BLUE」のラストシーンだったりを思い出したり。

健聴者として新たな気付きだったのは、手話会話における口元を観察することの重要性。
マスク生活において、コミュニケーションの障壁はより大きくなっているんだろうと苦労を想像させられる。。
xo

xo