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ケイコ 目を澄ませての仁のレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.4
ちょうど先日塚本晋也の『TOKYO FIST』というボクシング映画を観て、いや暴力は暴力でしかないだろ...と感じた矢先なのだが、思い直した。少なくともこの映画におけるボクシングで突き出される拳は暴力ではなかった。

耳の聞こえないケイコはそれまでの人生で簡単に意志を伝えることは出来なかったはず。ただ唯一「怒り」の感情だけは拳を行使することによって表明出来た。それしかなかった。だから荒れた(ように他者からは見える)学生生活だったんだと思う。でもそれを大人になってもずっと続けるわけにはいかないので、暴力が許されるボクシングという形を借りて自身の感情を委ねる手段にしてるのかな、と。これは最早単なる暴力ではなく自己表現。

繊細な音の描写が素晴らしく、ケイコの周りの環境音、生活音が彼女の声の代わりになっていた。タイトルは目を澄ましてだが耳も澄ますべき映画だった。コロナ周りの描写は割とガバガバ(街中のエキストラ全員マスクしてるのにバスの中でマスクしないのは??)なんだけど、それはもう飲み込んでくれ〜って感じなんでしょうか、コロナ禍の映画むじぃね
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