「ケイコ 目を澄ませて」不器用だが芯の強い、一人の女性が懸命にボクシングに向き合った日々。慎ましく時に痛々しくもある毎日を味わい豊かな16mmフィルム撮影、劇伴もなくストイックな作りで世界をありのままに描写する。
ケイコや周囲の人々を通して、この世界がこんなにも美しいと気付かせられる。
音に拘った映画でもある。
ボクシングジムでのトレーニング中の音、サンドバッグを叩く音、グローブがパンチで鳴る音、ステップでシューズとフロアがぶつかる音…それぞれガミニマムなビートになり静かなグルーブを生み出す。ドイツのミニマムテクノのようでもあり、ブロードウェイの人気舞台「ストンプ」の打楽器野様でもあり。
素人目にはきつくて痛くて耐える事の多いように感じるボクシングのトレーニングではあるが、ダンスのように楽しげなステップを踏む瞬間もある。
東京の下町の風景も同様、都心の華やかさとはかけ離れているが、この映画を観終わった後には違ったものになるのだ。
ラストの荒川を捉える素っ気ないショット達の美しさに心が震えた。
川はただ流れている。電車は走る。人々はそれぞれ何処かへ向かっていく。この世界は美しい。
