るか

ケイコ 目を澄ませてのるかのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.8
究極の引き算の上に出来上がった神作。VFXもBGMも必要ない。ただ、「目を澄ませて」スクリーンを見る。それがこの作品。いやーこれはいいものを見せて頂きました。
始まりの「音」でこの映画はすごいなと感動した。ケイコが手紙を書く「音」、氷を噛み砕く「音」。さらにジムで日常的に繰り返されるトレーニング器具の軋む「音」、スパーリングのリズムに足音が重なってジム全体がまるでひとつの音楽を奏でているかのようなあのオープニング、1度監督の耳を借りたいくらい。
耳の聞こえない女性ボクサーケイコが主人公のこの作品。普通のボクシング映画とは反対で彼女は小さく弱そうに描かれている。必ずといっても過言ではないほど引きで背の小さい彼女の全身を写したり、基本的にケイコよりも小さい登場人物は彼女の横には並ばない。会長も言っていた通り「ボクシングの才能は無い。人としての度量で彼女は戦っている。」身長、リーチ、筋肉などそういった明らかな「強そうな見た目」でない彼女にある「目を澄まさないと見えない強さ」これは美しかった。他にもほかの耳の聞こえない友達3人で話しているシーン。自分には手話の知識もない上に字幕も無い。なのにしっかり見ると彼女たちが話している言葉が一語一句わかってくる。これは鳥肌たった。凄かった。
そして彼女の日常の切り取り方。レジでのコミュニケーション、仕事の上でのマスクの弊害、道でぶつかった時、踏切、職質こんな日々の苦悩があるのかと。ほんと毎日無意識にやっていることの中に壁は存在することを学びました。

その素晴らしい主人公描写、細部にこだわる写し方の上にコロナ禍における苦悩、老いるということ、素晴らしいテーマが絶妙なバランスで折り重なっている。こういう作品見ると邦画っていいなってなっちゃう。
会長、トレーナーの2人とケイコの関係性は涙無しには語れない。スパーリング、シャドーどっちも貰い泣きしました。2023年初めに素晴らしい作品に巡り会えたことに感謝します。




※ここから愚痴です
鑑賞時隣の方がもう無い飲み物を2時間ずっとすすっていて、静寂が大切な今作をかなりぶち壊してくれました。ただそれがあってもここまでの感動を与えてくれた作品なので神作です。
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