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ケイコ 目を澄ませてのhiのレビュー・感想・評価

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.2
評判はよいけど正直あまり期待してなかったのだが映画館で鑑賞出来てよかったと心から思える素晴らしい作品でした。

ボクシングで既にプロデビューしており、ホテルで清掃の仕事をしながら弟と暮らしているケイコ。難聴であるということとは別に、元々多くを語るタイプではない寡黙でややぶっきらぼうなところがある彼女は誰に対してもあまり興味なさそうに見えるのだが、弟には実は結局優しいし、母がボクシングをする自分のことをどう思っているのか気にしていたりもする、ジムの人々に敬意を持って接している姿、日記に書かれる不安と葛藤、繊細に揺らぐ心。

近年公開された難聴者を扱うどの作品とも違うのは、映画の主題であるケイコの葛藤が難聴者であることとはおそらく関係のないところに起因しており、20代の人間の成長物語だったことの様に思います。
(ケイコがボクシングを始めた理由は特に語られることはなく、ぐれていた過去があったことくらいで、でもそれが理由ではないかもなーぁと会長が語ります)彼女の葛藤はおそらく、過去にあるわけではなく、現在についての葛藤であるといえます。


ケイコの眼差しの鋭さ、
時折見せる笑顔、
小さな"はい"
スパーリング音の心地よさ、
大きな電車の音、
暗闇と鮮烈な光のコントラスト、

基本的にカメラは定点でとらえられ、
静寂の中の音や光や些細な表情の揺れを際立たせてくれます。

弟のギターを除いて、音楽は全くないので、映画的クライマック演出はほぼないといって過言ではありません。
※もちろんクライマックスはありますが。

だからこそ、彼女が笑ったり戸惑ったり泣いたりする時どうしようもないほどの感情の揺れを感じることが出来たように思います。

昨今の(日本)映画やドラマの"過剰なエモの安売り"や、感情をコントロールするようなテレビ的演出が個人的には苦手なので(それでもドラマなら楽しめるのですが。。)
お洒落雰囲気アート映画でもない。なんと直球でありながら映画的なのだと、、、、


今回の大きな役割であった会長役の三浦友和さん、最高でしたね。
選手やコーチを見守る眼差し、
年齢を感じる渋みと同時に枯れていく姿、病院で弱っている姿や、ケイコと並んで歩く姿、良い味だしてました。
岸井さんとナイスコンビ!まるで父と娘のようでありながら、ケイコが尊敬し、慕っていることがわかるシーンの数々、それだけで、涙ものでした。


三宅唱監督、一気に好きな監督になりました。気骨がありながら、繊細な映画だったと思います。有難う御座います。

 
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