おそらく、今までで最も台詞と劇伴が少ない映画。
だからこそ、我々は耳と目を澄ませてケイコを辿る。
まず前提、本作はいわゆるお涙頂戴モノでなく、至極普遍的な迷いと岐路の物語である。
『Coda』とは別のアプローチだが、共通して障害をいたずらに強調せず、かといってそこから逃避することもなく、総合的な一人の人間として応援させられる。
裏を返せば、ストーリーライン自体は決して目新しいものではない。
しかしながらこの作品は、その普遍的な物語の片隅にある小さな音やなんてことない風景、あるいは微々たる心の波の一切を、見聞き落とすことなく丁寧に掬いあげてくれているのだ。
ハイフレームレートの『アバター』と対象的な16mmフィルムは、思い出や記憶の画質なのだとか。
五感を研ぎ澄まし日々の"雑音"に郷愁を感ずる、そんな映画体験の本質。