EnzoUkai

皇帝のいない八月のEnzoUkaiのレビュー・感想・評価

皇帝のいない八月(1978年製作の映画)
4.9
スクリーンで見るまでレビューは書かないって思ってたけど、松竹のリマスターやる気も無さそう。
つうか、ここの点数もそこそこなのが私自身に火をつけた。
私は日本映画史上でも出色の出来だと思ってるし、トップランカーの一つだと確信してる。
しかし、こういう評価なら今更4Kでリマスターされることも無さそうで非常に残念な気持ち。見返す画質は非常に悪い。ノイズが多いので現存するフィルムは傷ものしか残ってないはず。敢えて私が書くのも、恐らく数多居るこの映画の支持者とこの映画を共に支持したいからだ。
何度見ても本当に面白い。

高校生の時、深夜映画でこれを観て以来ずっと観続けてる。しかし、未だにスクリーンでは観られていない。
非常に荒唐無稽な話であるのに、近代史の大事件の様相で描かれる。クーデターと言えば「226」。しかし、その226でさえ、ことの経緯が実感させられるものではない。この映画で描かれるクーデターも恐らく非常に現実的で、実際のクーデターというのは一般市民にはその全貌を理解することが難しいものだと思われる。実際にクーデターが起こるならこういうことなんだと思う。
少なくともこの映画で描かれるクーデターは大菩薩峠や地下鉄サリンよりも凄まじいし、非常に大掛かりで巧妙だ。
まさかそんなやり方でクーデターが?ってそこだけでも引き込まれる材料だが、政権側の対処も見事に描かれる。途中挿入される人間ドラマもこの映画を成立させる為には不可欠な部分だと思う。あまり複雑な群像劇的な要素を排除してるのもこの映画の特徴だ。
これは今も昔も変わらない印象だが、右だ左だと互いに毛嫌いをする構図には根深さしか感じられず、それはこの先にも分かりあう余地は無さそうだと実感してる。この映画はそこの部分もよく描かれていて、双方の言い分(双方は少し言い過ぎで、極右のセリフが多いかな)に耳を傾けざるを得ない。それ故に、様々な危うさを感じざるを得ない。だからこそ、バランスの大事さを痛感する。
まぁ山本薩夫はそこも非常に上手く描いてる。日本の国民性や日本の民主主義を見事に俯瞰してる。

よくぞここまで集められたなぁって思うほどの名俳優たち。それもこの映画の大変な見どころ。

ではまた。
EnzoUkai

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