幽斎

X エックスの幽斎のレビュー・感想・評価

X エックス(2022年製作の映画)
4.6
最初の感想「よくシネコンで公開出来たな」。作品のクラスもジャンルもカァンプリィトゥナァスも未体験ゾーンの映画たち。とかカリテ・ファンタスティックでサクッと上映した後で配信に廻すレベルだが、其処はレビュー済「ミッドサマー」「ヘレディタリー/継承」A24のブランド力の成せる技か。TOHOシネマズ二条で鑑賞。

A24はCOVIDの影響を最も受けたスタジオ。インディペンデントの雄で非公開会社なので、ハリウッド・メジャーと違い映画を作り続けないと容易に破綻する。AmazonスタジオやNetflixの追撃も厳しさを増し、近年提携してるAppleに吸収される噂もアメリカでは後を絶たない。会社の最大の特徴は拠点がハリウッドから遠く離れたニューヨークのアップフロントに有る事。流行や社会情勢に流されない、独自のコンセプションが持ち味。2年近く作品製作が滞る異常事態、このままではA24 Televisionしか生き残れない。それを回避できるのは劇場のファン以外に無い。

やってる事はエグイけど上辺は上品なA24の中で最も血生臭い作品。レビュー済のオカルト・スリラーの最高傑作「ヘレディタリー/継承」すらインテリジェンスの薫りを感じだが、本作は定番「田舎ホラー」をブラッシュアップしただけ。それでも最近のコンプライアンスを過剰に意識した、客を怖がらせず脅かすだけ(似てるけど全然違うからね)、何ならパロディかよと言う作品が塗れる中、しっかり残酷描写を見せるので期待「血」も上がる。

誰が見ても解る通り「悪魔のいけにえ」始まるスラッシャー、通称「Manhunt」。秀逸なのは過去の名作にオマージュを捧げながら、ホラーの王道を綺麗にトレースしながら、田舎ホラーのお約束を律儀に守りながら、スプラッタに対する愛情とか、時代を加味したユーモアを交えた皮肉が、練りワサビの様に効いてる。些か軸足がホラーよりもスリラーに傾くが、ソレはA24なので仕方ない(笑)。ホラーのオタク度が高い人ほど味わえる、取りあえず下記のリンクで自分が楽しめるか、試してからご覧頂きたい(音量注意)。
https://www.youtube.com/watch?v=-keGmNZ2pLw&ab

Ti West監督と言えば「キャビン・フィーバー2」注目され以降「ABCオブデス」「V/H/S シンドローム」スラッシャー一直線だが「サクラメント死の楽園」皮肉の効いた社会派もイケる。脚本をA24に持ち込み「えっ?、ウチで作るの?」と絶句させたが(笑)、ある構想を聞いてGoサインを出した。気に為るのは、その理由の為か全体的に「ダルい」演出も目立つ。特に前半は人間関係の「説明」が意外と長く、肝心の?セックス・シーンは意外と短め。伏線はしっかり回収されるので、私の様にスリラーを見に来てる人は良いが、スラッシャーの文字通り切れ味鋭い演出には程遠く感じた。

Mia Gothは良いチャンスを貰ったと思う。レビュー済「マローボーン家の掟」「ハイ・ライフ」の他にも「ニンフォマニアック Vol.2」「サスペリア」本作に通じるルートを着実に歩んで来た。彼女が演じるマキシーンの魅力、エロティックと無垢な感性を併せ持つ姿は、そのままMia Gothに重なる様に見える。当て書したと言うよりも、彼女が本来持つ魅力を監督が解包した、と言う方が正しかろう。初主演の彼女の全力疾走を是非見届けて欲しい。待機作が目白押しの20歳の注目株Jenna Ortega、「ピッチ・パーフェクト」Brittany Snowなど脇も渋い。さぁ、老婆パールは誰が演じてるのか?(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

監督はA24に脚本を持ち込んだ時、スタジオ側から「やんわり」拒否された。元はハリウッドで製作する筈がCOVIDの影響で待機作品が在庫の様に溜まる中、挑戦的な新作は難しいと判断。ではAmazonスタジオやNetflixはどうかと言えば、レイティングが厳しい配信では本作の良さは活かせない。其処で監督は軸と成る本作に「前日譜」と「後日譚」を新たに創り、A24を説得した。前情報なしで最後までエンドロールを見た人は目が点に成ったろう(笑)。

本作はニュージーランドで撮影されたが、COVIDの検疫で2週間ホテルに缶詰めにされた監督は前日譜と成る続編「Pearl」の脚本を仕上げた。A24との約束で前日譜は本作よりも上品な(笑)、スリラー寄りの作品に仕上がる予定だが、本作「X」完成後に監督はMia Gothに「まだニュージーランドに残って新作を撮りたい?」と聞いて即答され、セットもそのまま残ってるし、実は続編は既に完成してる。社会情勢に問題が無ければ早くて今年中にも北米公開。マキシーンと老婆パールの一人二役を演じたMia Gothが、今度は若くて美しい踊り子のパールを演じるのだ。

原題「X」文字には様々なダブルミーニングが込められてる。判り易いのはレイティングのX。アメリカではポルノはX指定で有り、現在はNC-17に改めたが、映画では無いポルノ・ビデオや配信では今でも通称Xと呼ばれる。ハードコアの度が増すとXが増え、最高がトリプル・エックス。本作も3組のセックスなので「XXX」。

もう1つはキリスト教。エックスとはキリストを意味し、ソレはローマ数字10の由来でも有る。アメリカでXは「未知なる者」と言う意味も有り、それが宗教に繋がる。盛んに映し出されるテレビに違和感を感じた方も多いだろう。あの時代には「テレビ伝道師」が盛んに放送され、現代でもTwitterに移し代わって存在する。老夫婦の背景は続編「Pearl」を待ちたいが、大戦のトラウマで豊かな夫婦生活が築けなかった事は台詞でも語られる。テレビの内容は保守的なキリスト教、その伝道師の娘が家出したマキシーンと言う設定には些か驚愕した。ヤッパリ、これはスリラーじゃん(笑)。

Jenna Ortegaが演じたロレインは、マキシーンとは映し鏡の存在で、彼女は純血主義を貫く敬虔なキリスト信者だと明確に設定。その彼女がポルノ撮影で本物の騎乗位を見て興奮、自らも演じたいと「性の解放」をした事で恐怖の対象に置き換わる。マキシーンが「Lynda Carterに成りたい!」と言ったが、彼女は「ワンダーウーマン」シリーズの主演。最新作「ワンダーウーマン1984」にもカメオ出演。無敵と言えば地下の縛られた男も、イエス・キリストを模してる。続編で彼がパールの性奴隷に為った経緯も語られるのか(笑)。

本作は隠しコマンドも満載「X」はオーストラリアの2011年「X:Night of Vengeance」インスパイア、ジャケ写も類似してる。「農場の娘たち」ポルノも1976年The Farmer's Daughters「ニューヨークの恋人」出演歴の有るSpalding Grayが主演。死を予言する伏線も有り、リンの場合は冒頭のストリップクラブを出ると、ワニとビキニを脱いだ金髪女性を描いた壁画。ウェインはRJとの会話で「人々の目は頭蓋骨から飛び出すだろう」。ジャクソンはベトナムで奉仕している間、銃を持った農民に脅された。そのジャクソンが飲んだミルクカートンの広告に地下室で見つかった男性(ミルクカートンとは牛乳パックに行方不明者の顔写真を載せる)等々。

【老人と性】
此処からは産科婦人科医の友人の監修として話を続けます。熟年女性のセックスの悩みは年々深刻さを増してる。女性の場合は18歳でピークを迎え男性と同じく30歳を過ぎると生殖機能は衰えますが、男性と違うのはホルモン分泌。女性は40歳前後で再び上昇カーブを描き、もう一度50歳前後で2度目のピークを迎えます。即ち閉経と因果関係が大きく関わる。40代女性の顕著な悩みは「挿入時間や射精までの時間が短い」自分は濃密にセックスを楽しみたいのに男性側のパフォーマンスは反比例して低下する。

50代に成ると「オーガズムに達しない」快感が得られない、セックスが自己完結してる事を意味する。女性は閉経後でもセックスに対しては旺盛。純粋に楽しめると思った矢先、強い快感が得られない理想と現実のギャップに悩まされる。特徴的なのは女性は異性と接触すると女性ホルモン「エストロゲン」が分泌される。生体年齢を感じさせない若々しい女性は、洩れなくセックスをしてらっしゃる。コラーゲンは塗っても飲んでも効果は有りません。美白クリームの出演者は全てプロのモデルの方です。

60代の悩みは「挿入時間や射精までの時間が長い」。射精障害や遅漏に男性が悩んでる事を知らないのが要因。60代の多くは悟りの境地で、心身ともに受け入れ態勢は万全。問題なのは男性が「女性として見てるか」。女性はセックスしなくとも、誰かを好きとかオナニーしても脳内にエンドルフィンが放出され、高揚感や満足感が高まる事は医学的に説明できる。しかし、男性側は加齢による勃起不足で不能と罵られる。女性の性への欲求は「死ぬまで」。本作の様に男性側が肉体的に追い付かないのは残念ですが摂理なのです。

プロット的にはレビュー済「ドント・ブリーズ」裏返しだが、ラストでマキシーンは老夫婦を倒すが、ソレも老夫婦の自滅で人間は老化に勝てないテーマと一致する。マキシーンと老婆パールの一人二役は「自分VS自分」を意味し、伝道師の娘だった彼女は「キリストなんて糞喰らえ!」な心境だったと思う。「私らしくない道は許さない」それはパールも同じなのだ。

A24が仕掛けるエクストリーム・ライドスリラー。乗り遅れると損する事は間違いない。
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