幽斎

SISU/シス 不死身の男の幽斎のレビュー・感想・評価

SISU/シス 不死身の男(2022年製作の映画)
4.0
サンタクロースの国フィンランド発「レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース」奇想天外なブラックコメディの鬼才Jalmari Helander監督が、一転して第二次世界大戦末期を描くヴァイオレンスアクション。和風のイオン京都桂川で鑑賞。

原題「Sisu」ウラル族語、アメリカ、イギリス英語しか分らない私は、京都の大学で北欧文化を学んだ友人に尋ねたが、フィンランドは「フィン人の国」と言う意味で、Sisuはフィンランド人の哲学「勇敢で在り続ける力」ストイックな決意を表し、英語には該当する言葉は無いらしい。武家出自の私は日本人に例えると「サムライ魂」に感じた。フィンランドが常に周囲の列強国に翻弄された歴史とも重なる。

皆さんは北欧と言えばどんな印象ですか?。IKEAの様なシャレオツなイメージでしょうか?。私の専門はミステリーですが、小説が国を表すと言うなら、随分とイメージが異なる。レビュー済「ドラゴン・タトゥーの女」の原作「Millennium」スウェーデンの作家Stieg Larssonの傑作ですが、世界で一番幸福の国に見えました?。スカンディナヴィア三国と本作のフィンランド、アイスランドを加えて「北欧」。撮影はEUの最北端フィンランドのヌオルガム村、美しい風景に癒されるが冬の気温は-20℃!。

北欧に共通するネガティヴは、自殺率が高い、男尊女卑が根強く○イプ犯罪、父と娘の近親相姦も多い、移民に対して不寛容、税金が高く物価も高い。本を読んで原因は何だろうと考えると、日照時間が少なく寒くて暗い。ストックホルムは冬は15時に日没、北極圏に近いと太陽が1日中昇らない「極夜」。北欧で暮らした友人も言ってましたよ、同じ住むなら東南アジアが一番!、フィンランドは街が陰気で寒いしメシも不味いと(笑)。

現在のフィンランドは極右、官僚がネオナチの集会に出席、日本の統一教会と似た者同志。移民は断固反対、LGBTなどクソ喰らえ、EUから離脱すべき。NATOに加盟したが、ナチス思想の残骸が今でも根強く支配する国。ナチスとフィンランドは「ラップランド戦争」ドイツ軍の焦土戦術の凄まじさは苛烈を極めたが、ドイツ側の敗北が秒読み段階。ソニーピクチャーズも良い掘り出しモノを見付けて、世界各地で大ヒット御礼。

戦国時代もラップランド戦争もロシア内戦も、戦の全てに共通するのは「退く」事の難しさ。ゲームがお好きなら「信長の野望」ご存じでしょうが、合戦は劣勢でも優勢でも撤退するのは勇気が要る。細川家のプレーヤーは足利将軍家なので防戦一方(笑)、外交を駆使して領土を拡大。ナチス側も負け確定、サッサと撤収すれば良いのに、ドイツ人男の本性で女性を拉致して○イプする。「見っとも無い爺さんだぜ」バカにして自分達を慰める。彼が金塊を持ってる事を知るまでは。

監督は「ランボー」参考にしたらしいが、単身で高いスキルを誇るプロットは西部劇まで遡る。近年は「ダイハード」からレビュー済「ジョンウィック」へとモダンに進化。秀逸なのは無敵の爺さんよりもナチスの描き方。主役を良く見せる為に悪役はダウングレードが一般的。本作はナチスを小者扱いせず、台詞も喋らせない事でアアタミの大物感を演出。死ぬ事をダイレクトに描く点もフィンランドらしい。人を殺す時は必ず頭を撃つ「情け」と言う文字は彼等には存在しない。息の根を止めるまで絶対に手を緩めない。

主人公はソ連との戦争で伝説に成ったスナイパー、Simo Häyhäをイメージして創られた。ソビエト軍から「白い死神」恐れられ、542人を射殺した彼は世界戦史の最多記録として歴史に名を刻む。まぁ、本作の武器はライフルでは無く「ツルハシ」だが(笑)。ジョンウィックと同じく犬も登場するが、シリアスな戦闘の一服の清涼剤として、コメディリリーフを担当。犬は死なないが、馬は死ぬので心根の優しい方は要注意。

日本で話題に成る様な作品では本来は無い。知らない監督、知らない出演者、知らないラップランド戦争とフィンランドの歴史。ドレを取ってもヒット要素は見当たらない。だが、日本人のシンパシーに共鳴、口コミで広がった。どんなに劣勢に為っても「諦めない」Sisuの不屈の精神は侍魂と共通、アメリカを映画「オッペンハイマー」まで追い詰めた。個で戦う他国に対し、日本は組織で戦い犠牲も恐れぬ戦法で、ソ連と中国に勝利した。目的完遂まで決して諦めないアアタミに、私達も何かに共鳴してる。

アアタミ・コルピ、ロバート・マッコール、ジョン・ウィック、果たして最強は誰だ!(笑)。
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