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小説家の映画のYKのレビュー・感想・評価

小説家の映画(2022年製作の映画)
5.0
公式サイトには「女性たちの連帯」、レビューサイトでは「気まずい会話劇」などとばかり書かれているが、そんな映画じゃない!と自分は思う。ただ、どんな映画かをひとことで言うには難しいので、配給や宣伝もこう書くしかなかったのだろう。そんな中、spotifyで「PARAKEET CINEMA CLASS」というポッドキャストを見つけ、そこで映画評論家の廣瀬純さんが話していた「画面外の映画」という説明がいちばんしっくりきた。

「画面外」というのは、これまでのホン・サンス監督作品でも感じられるものだったように思う。登場人物が「あ、あの木見て」と言ったとき、ふつうのカット割りのセオリーならば次にその「木」が画面に映される。しかし、ホン・サンスはその木を一切映すことなく、木を見ている人物を撮り続け、観客は最後までどういう木を見ながら会話が行われているかを知ることはできない。それは、普通だったら要素を積み重ねて物語を紡いでいくところを、積み重ねず、ストーリーが生まれるのを避けていくような感覚に思える。

本編では、主人公である元小説家の女が、映画を作ってみたいと言って理想の映画スタイルを語るシーンがある。「ストーリーはさほど重要でなない」→分かる。「芝居は好きな俳優に委ね、彼らが落ち着く環境を準備する」→分かる。「カメラの前に現れるものをただ記録する」→分かる。なんだ全部共感できる!と思ったら、それはすべてホン・サンス自身の撮影スタイルだったからだ。そして案の定、その後の撮影シーンと出来上がった後の風景はまったく映されない。これもすべて「画面外」。ホン・サンスの映画では、大事なことはすべて「画面外」で起こるのだった。
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