寝木裕和

午前4時にパリの夜は明けるの寝木裕和のレビュー・感想・評価

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1981年5月、ミッテランが大統領に就任することが決まった日から始まる物語。

街の人々はそのことに歓喜して大騒ぎをしているのだが、話しが進んでいくと主人公である母・エリザベートは夫が他所で愛人を作って家を出て行ったばかりで途方に暮れていることが分かってくる。

それでも悲観に暮れてばかりではなく、二人の子供たちと、ひょんなことから自宅に招き入れた家出少女・タルラとともに、日々を楽しみながら、ときに歌い踊りながら、小さな幸せの欠片を拾い集めながら生きていく逞しい女性が、シャルロット・ゲンズブール演ずる、エリザベートだ。

ある日エリザベートたちは、タルラが薬物中毒の状態でアパートのエレベーターホールで倒れているのを見つける。

エリザベートはタルラを激しく叱責する。

数日が過ぎ、エリザベートたち一家のケアもあり、タルラは精神的にも身体的にも快方に向かっていった。

そんな折、タルラはエリザベートたちのアパートを黙って出ていく。

けれどもう、かつてのように自らをダークサイドの方へ追いやる心配はない。

ふとしたことで覚えた、「物語を演じる」ということの喜び。そう、タルラは俳優としての道を進もうとしていた。
家出少女だった時とは違い、彼女の胸には夢と希望が詰まっていたはずだ。

… この作中、とある映画を劇場で観るというシーンが2度、出てくる。

一つはエリック・ロメール監督作『満月の夜』。
そしてもう一つがジャック・リヴェット監督作『北の橋』。

そして、その2本の映画、両方に出演している女優が、パスカル・オジェ。

パスカル・オジェは80年代前半に颯爽と映画界に登場し、その後の俳優業を嘱望されながらも25歳の若さでこの世を去ったのだ。

… 薬物による発作だったと言われている。


話しをこの作品に戻そう。

ここでミカエル・アース監督が描き出そうとしている、80年代のパリが持つ、永遠の煌めき。
それを象徴しているような、パスカル・オジェという存在。

監督は、タルラという少女にパスカル・オジェがその後進んでいくはずだった輝ける道を託そうとしたのではないだろうか。
映画の中でのパスカル・オジェは私たちの目に永遠に生き生きと映っている。
そしてタルラの夢と希望に満ちた瞳の中でも、ずっと生き続けるのだろう。

そんなことを考えて、胸がギュッとなった。
寝木裕和

寝木裕和