木蘭

太陽と桃の歌の木蘭のレビュー・感想・評価

太陽と桃の歌(2022年製作の映画)
3.5
 カタルーニャの小さな農村を舞台に、変わりゆく故郷と変わらぬ家族との軋轢を写し取った121分。
 それこそ内戦を筆頭に、急激な経済や社会の変化に振り回されながらも、親子代々土地に根ざして生きてきた農家の一夏を描いていく。

 監督の故郷である原題にもなったカタルーニャ地方アルカラス村の、今や失われ行く家族の姿や営みを再現し、記録する・・・という半ばセミ・ドキュメンタリーの様な作品。
 それ故に、日々勃発する問題に右往左往する姿を淡々と写すので、それほど明確でドラマティックなストーリーがあるわけではないので、退屈した訳では無いが、疲れていて一寸寝落ちしてしまった。反省。

 リアリティを出すべく、現地の言葉を喋れる事を条件にオーディションで選んだ素人を含むメンバーを集め、時間を掛けて家族の様な関係性を作り上げ、現地アルカラス村で撮影をしたという。
 おかげで実に自然な演出と演技で、特に子供達の無作為とも思える姿に見ていてニコニコしてしまう。本当に可愛くてね。
 男達は男達で、田舎の農家の男!って感じで、不器用で頑固でマッチョで、がんばりが空回りする姿は、見ていて・・・あぁ、もう!・・・と思ってしまう。
 他方、女達は家内とか奥さんと呼ばれる様な家庭的な保守性を見せつつも、やっぱりスペイン女は怖いな・・・と思わせてくれるので素敵。

 昔、南欧の農家に滞在した時の事を思いだしてしまった様に、ありふれた大家族の姿を描きながら・・・再生エネルギー開発、農産物の市場価格、流通、不法就労の移民を用いた安い労働力、麻薬・・・といった、とりまく社会問題を織り込んでいくのは巧み。
 果樹園が象徴する様に、否応なしに変わりゆく世界とは対照的に、家と庭が象徴する家族の姿は変わらないし、変わろうとしても変われない。それ故に・・・娘と"彼女"と街で暮らす妹の様に・・・居場所がなくて出て行ってしまう人も描かれていた。

 故郷と人を愛する事が大切なのは皆が分かっているけど、何をすれば正解なのかは誰にも分からない中で答えは見いだせない・・・でも、許せない事に憤慨し、怒りの声を上げる事は忘れちゃいけない!というのは伝わってきたかな。桃を投げる姿と、ママの平手打ちで。

 それと小さな女の子達がパンツ一丁でウロウロしているシーンで、胸にボカシが入っていたのだが・・・あれは、どの段階で、誰の意図で入れた修正なのかなぁ。
 色々と難しい事があるんだろうけど、唯一不自然で何だかなぁ・・・と思ってしまった。
木蘭

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