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PARALLELの消費者のレビュー・感想・評価

PARALLEL(2021年製作の映画)
3.9
・ジャンル
スラッシャー/ホラー/ドラマ/ロマンス

・あらすじ
幼少期、両親から苛烈な虐待を受けて育った舞は突如として現れた女装殺人鬼に2人を殺し救われた過去から犯人である小林慎司に奇妙な愛着を抱いていた
それは彼が警察に射殺されこの世にいない今でも変わる事はなく、理由は不明だが殺人の映像と共に小林の写真を投稿するコスプレ殺人鬼へも同様
そしてある日、合コンで出会った男タケルに犯されかけた時に彼女を覗き見る者が…
奇しくもそれはそのコスプレ殺人鬼、美喜男であった
以降、美喜男もまた舞に興味を抱き素性を隠して彼女に接触
2人の距離は急速に近づいていく
しかし彼の心は揺れていた
“計画”の為に彼女を殺すべきか、生かしたいという気持ちに従うか…
刻々と迫る“計画”のXデー
果たして美喜男はどんな決断を下すのか?
彼の凶行の理由とは?

・感想
魔法少女のコスプレ姿で連続殺人を行う男とかつて殺人鬼に両親の虐待から救われた女の歪な恋心を描いたスラッシャーホラー作品
やっとU-NEXTに来たので鑑賞

劇場公開からかなり評判の良い作品だったのでどんな物かと思っていたけどなかなかの怪作だった
コスプレ殺人鬼“サリー”こと美喜男の幼少期の虐待をきっかけとした歪んだ動機
ペンライトを突き刺し遺体を発光させるという異常性や円ノコを取り付けた魔法のステッキという小道具の視覚的な特異さ
舞に降り掛かる裏切り、最後に明かされる似た境遇の美喜男と舞の大きな違い
舞が男を落とす事に執着する理由である他者評価への依存
そして美喜男が何故魔法少女の姿で殺戮をするに至ったか…
細かな要素が話の進行と共に深く絡み合い綺麗に収まる展開も良く出来ていた

惜しかった部分としては尺が短いせいもあってか美喜男達のグループが標的とする汚い人間達の基準や彼以外の目標などが掘り下げ不足でやや陳腐に映った点
舞のトラウマや“中古品”である事への負い目、美喜男との出会いによる再生などが日本のリアルを少なからず感じさせる重たくも意義のある内容だっただけにそこと比較して作り込みが甘かった印象が拭えない

ただ無名のキャストが多く芝居がかった台詞回しが多いというのを逆にアニメとリンクした世界観を支える要素として成立させていたり、百合っぽさのある舞と親友である佳奈の関係をネット上でよく見る様な残酷な感覚による裏切りで破壊したりと三次元への二次元やネット文化の絡ませ方の巧みさ等はやっぱり面白い
最後の標的である現代評論家、奥寺だったり舞のパパ活相手であったりと安いステレオタイプを反映させた登場人物達も昨今目立つアンチヒーロー待望論的な世論の表現として秀逸
シリアルキラーを弱い存在として描いているのも良かったし、二次創作を“転生”と捉える美喜男の持論も病的だが興味深かった

映像のスタイルや華やかな存在を血みどろな物と繋いだ世界観は最近鑑賞した「Cosmetic DNA」と近しい物がある
しかし作品の出来の差は歴然でアレがやろうとしていたカウンターとしての殺戮という物をポップさを保ちながら巧みに構築した様は圧巻の一言
粗さが逆に味になっているという事も低予算作品の鑑という感じで魅力的
承認欲求をテーマとしつつ訳知り顔な視点からそれを紐解くのではなく没入的に提示していたのも好きだった部分
欲を言えば美喜男達が言う所の社会の“汚れ”をより生々しく露悪的に見せてくれていたら尚素晴らしい出来になっていたかも

何はともあれ観て良かった作品であるのは間違いない
パケ写だけ見ると「マジカル・ガール」等も想起させられるけど全くの別物で独特な魅力に満ちた良作
田中大貴監督には今後も期待したい

あと美喜男がイケメン過ぎなかったのと登場する女性2人がちゃんと可愛かったのも良いね…
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