真魚八重子

フレッシュの真魚八重子のレビュー・感想・評価

フレッシュ(2022年製作の映画)
5.0
前半でわかるのは、女性監督と女性脚本家が、理想的な出会いについて表現していることだ。
イケメンで、下ネタは絶対言ってこなくて、それなりに良い職業で(良すぎると警戒してしまう)、こちらに敬意を払ってくれて、話を聞いてくれたうえで重なる部分の身の上話をしてくれる。「母を最近亡くしたの」と言った直後に、「俺はねえ」と全然違う話をしてくるような、自分が前に出てくるタイプは嫌われる。ヘンに陽キャすぎなくて、でも話は途切れず、なんでもないことでクスクス笑っていられるような会話がいい。

贅沢ですよね、まずセバスチャン・スタンなんだから。でも相手がスタンでも、こちらがシリアスな話を切り出したときに「俺はねえ」とか、「わたし牡蠣食べられないの」と言ってるのに「ふうん、生牡蠣盛り合わせください」とか、そういうデリカシーのないことをしたら、とりあえずその夜は一回ヤるけど二度目のデートはないと思う。

でも、条件が全部クリアしたら速攻旅行でも行くだろう、やっぱり。ただし残念ながらカニバリストで、さらに女性たちを監禁していて、それを理解している妻もいるとなったらもう最悪。当然再建手術ができない形で噛みちぎって、とどめを刺す。主人公ノアの友人が、反撃してくる妻に対して「あんたみたいな女がいるのも悪い」っていうセリフもすごくいい。女の足を引っ張る女にも目線をくれてるのが丁寧な仕事。女同士で、先に監禁されていたアジア系の女性も助けて逃げるのが、すごく良いオチだと思う。すでに食べられて部位を失っているという感覚は、女性の作るホラーでここまで来たのが嬉しい。

あと、スタンがヒロインに恋をしていて、ディナーを用意するんだけど、あてがった俺の理想の服がピンクのワンピースで、ノアが鼻で「ピンク」って笑うのがいい。『バービー』がいかに古臭い映画かわかるってものだ。

こういうホラーで、最後に逃げ切れなかったみたいな一瞬の映像を足すことが、非常に多い。わたしはそれの反対派で、健やかに後味良く終われば良いと思う。
真魚八重子

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